研究課題/領域番号 |
26820369
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
和田 豊 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20553374)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 低融点熱可塑性樹脂 / 燃焼火炎観察 / ハイブリッドロケット / 境界層燃焼火炎 |
研究実績の概要 |
本研究は,燃焼状況を可視化することができる燃焼器を用いて,液化が容易に行われ燃料成分を多く供給できる低融点熱可塑性樹脂(LT)燃料の燃焼メカニズムを解明し,LT燃料の燃焼モデルの構築に必要なデータの取得を行うことを目的としている.初年度は以下の3つについて実施し一定の成果を得ることができた. 1.重力加速度による影響の解明:ここでは,従来の研究成果から観察には重力による影響が大きく作用することがわかっており,燃料を横に寝かさず,実際のロケットと同じ縦に配置した環境で実験を実施する設備を整えた.その結果,縦にしたことで従来予想されていた,燃料表面からの液滴燃料の飛散が確認されず,表面で溶融した燃料の大部分は固体燃料表面を伝って燃焼器下部へ流れ落ちていることが明らかとなった.重力が大きく燃焼器内部の挙動に影響を与えていることが示唆された. 2.燃焼圧力の違いによる影響の解明:圧力を10気圧から70気圧まで変化させることで燃焼機内の観察を実施する予定であったが,酸化剤の供給系の能力により最大で50気圧までの実験となった.その結果,内部の挙動に大きな変化が見られない一方で,火炎の発光強度が強まり,燃焼火炎温度が圧力に応じて高くなっていることが観察された. 3.赤外分光による境界層火炎帯の解析:燃焼火炎の可視光を遮り,赤外光のみを観察することで境界層燃焼火炎の撮影を試みた.その結果,火炎形状をきれいに撮影することに成功し,撮影された画像の明暗から高温場と低温場を推定することができた. 以上の3つの実施結果から,従来考えられていた燃焼モデルとは異なる燃焼モデルが存在することを示唆する実験結果を測定することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,チョーク条件を満たす燃焼器内部の境界層火炎を直接観察し,その燃焼機構を解明しようとする,世界でも観察の成功事例がほとんどない挑戦的な研究である.実際のロケットの動作圧力領域である10~50気圧の圧力で燃焼する火炎帯の撮影に初年度で成功したことは,世界に先駆けた大きな成果であると考えている.以下におおむね順調に進展している理由を示す. 1.重力加速度による影響の解明:従来の研究結果から重力による影響は示唆されていたが,実際のロケットと同じ環境となる縦型での実験を実施したところ,明らかにこれまでとは異なる燃焼状況が撮影された.これにより重力加速による影響に対しての調査は実施できており,これまでとは異なる振る舞いをすることが成果として示された. 2.燃焼圧力の違いによる影響の解明:燃焼圧力の違いによる影響としては,これまで燃料後退速度は圧力にあまり依存しないが,ロケットの内部の燃焼完結性が高まることが示唆されている.今回の撮影によって,50気圧までの圧力領域では燃焼火炎構造にはほとんど変化がなく,火炎帯の発光は強まっていることが確認された.これは燃焼内部の流れがほとんど圧力によって変化していないことを意味しており,燃料後退速度が変化しないことを示唆している.さらに発光が強まったことは,燃焼火炎温度が上昇していることが考えられ,それにより燃焼完結性が高まることは十分考えられるため従来の結果と矛盾しない結果が得られている. 3.赤外分光による境界層火炎帯の解析:初年度は赤外領域の波長領域で火炎観察をクリアに行うことが目的とされており,クリアな撮影に成功しているため順調に研究が進行していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画の変更点並びに課題点は以下のとおりである. 1.重力加速度による影響の解明:当初の予定では高い加速度がロケットの飛翔中にはかかるため,それを模擬した実験を予定していた.しかし,縦型で実験し,観察を行ったところ,従来想定されていた挙動とは異なる結果が得られた.特に,燃料表面を流れ落ちる液化燃料の様子は,加速度を上げてもこれ以上大きな変化が生じることは考えにくいため,方針を変更し,より燃焼状況に影響を与えるであろう,酸化剤流束をより大きな範囲で変化させ,それによる火炎構造の変化を観察する. 2.燃焼圧力の違いによる影響の解明:燃焼圧力の変化をより高い70気圧まで上昇させるためには,酸化剤の供給能力を向上させる必要がある.向上させるためには,高価な装置が必要となるため,それを保有しているJAXAとの実験の連携を深め,実験装置の一部を借りうけて実施する. 3.赤外分光による境界層火炎帯の解析:赤外分光によりクリアな燃焼火炎構造の撮影に成功しているため,撮影時の温度の校正方法を確立し,実験を実施していく.特に撮影している火炎は2000~3000℃の高温のため,この温度を構成するために,校正された色温度を利用して実施する. 以上の研究を推進することにより,ハイブリッドロケットの燃焼器内部で発生している低融点燃料の燃焼状況を可視化し,より燃焼効率の高い燃焼形態の提案や,燃焼器構造の提案,そしてより燃焼後退速度の高い燃料設計製作の指針を打ち出すことができると考えている.さらに高温かつ高圧力下での超臨界状態の液体の燃焼状況を撮影することは燃焼工学の分野にとっても貴重な実験データとなりえるため,宇宙工学のみならず,燃焼工学の分野の学会などへ積極的な発表を行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
該当助成金が生じた理由としては,本研究を含む関連分野の研究会を開催した際の会議費として支出をすることを予定していたところ,年度末の時期での開催だったため,急きょ,他の研究者らの都合によって延期となってしまい,確保しておいた会議費分が余剰分として生じてしまったことにより発生したものである.
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度には,年度末ぎりぎりでの研究会の開催を避けるなどしてこのような余剰分が生じないように使用する計画である.
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