研究課題/領域番号 |
26820379
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
谷 洋海 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発本部, 開発員 (80633784)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自燃性推進剤 / 自着火 / 着火遅れ時間 / 大規模詳細反応機構 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は宇宙機化学スラスタ内部で生じる推進剤噴霧流の自着火現象の解明であり、初年度は燃料、酸化剤共にガス化した状態からの着火プロセスを数値解析及び基礎試験から調査した。対象とした燃料と酸化剤は国内の人工衛星で使用されるヒドラジン系燃料と四酸化二窒素である。数値解析においては森井らが提案された高速積分法を用いることでヒドラジン―四酸化二窒素の詳細反応機構(39化学種, 261素反応)を流体解析と直接連成することを実現した。その方法によって、ヒドラジンガスジェットと四酸化ニ窒素ガスジェットの計算を行い、着火位置や着火遅れ時間を支配する素反応や混合現象を調査した。その結果、両ジェット共にヒドラジン分子から二酸化窒素分子が水素原子を引き抜く素反応過程(水素引き抜き反応)の発熱が混合気を予熱し、最終的に自着火を誘起することがわかった。また、その水素引き抜き反応が生じる領域は、ジェット噴射条件によって変化する混合渦の位置に左右されることが明らかになった。興味深いことに、一般的に混合を促進する渦形成が水素引き抜き反応にとっては反応進行を抑制してしまうことがあり、その結果、着火が遅くなるケースがあった。つまり、着火制御として積極的に混合を促進することが必ずしも良い方法ではないことが判明した。着火とは別の特徴としては着火後に形成される火炎構造にヒドラジンの熱分解反応の影響が顕著に現れた。これはヒドラジンが高温にさらされるとアンモニア等に熱分解する反応に起因しており、これにより通常の拡散火炎に加えて熱分解による発熱領域が第二の火炎を形成することがわかった。数値解析結果は過去の基礎試験結果と比較することで妥当性を確認した。実験ではモノメチルヒドラジンと四酸化二窒素の衝突ジェット試験用のインジェクタを製作し、ガス化した燃料、酸化剤の着火遅れ時間や着火位置に関する計測データを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、数値解析では大規模詳細反応機構を用いた燃焼計算に成功し、さらにガスジェットの着火現象の理解と制御方法に関する有用な知見を得た。また、実験についても実液を用いた試験を実現し、可視化などの計測データを行うことができた。 次年度実施予定の単一液滴の着火解析の準備も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、まず単一液滴の着火解析を実現する。このためにMARS法とLevel-set法を協調した気液界面追跡法と界面蒸発モデルを導入する予定である。さらに、その結果を用いて自然性推進剤特有の液滴蒸発モデルを構築し、Lagrangian追跡法を使用する噴霧流解析を実施し、噴霧流の着火現象の理解を進める。実験については、液体推進剤の着火遅れ時間や着火位置を計測できるように噴射装置や噴射条件を変更する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿予定であった査読付論文を提出できなかったため、掲載費が次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に論文を提出し、計画通り掲載費として使用する予定である。
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