研究課題
本研究の目的は、鉄を唯一のエネルギー源とし、海水中のCO2固定により生育する海洋性鉄酸化細菌がその菌体外に産生する有機高分子の特異な構造および有用性を明らかにすることである。本年度は菌体外有機高分子試料の大量取得を目指し、種々の培養手法を用いた大量培養系の構築(スケールアップ)を検討した。スケールアップの評価方法は、培養によって得られる菌体数および菌体外物質と鉄酸化物の複合体である沈殿物の重量とそれら沈殿物中の有機炭素含量の比較により行った。さらに、エネルギー源である二価鉄(塩化鉄溶液)の培地中の濃度および添加のタイミングを検討し、増殖傾向や沈殿物量、有機物量への影響を調べた。これらの検討により、6 Lの培養系までスケールアップすることに成功し、また500 mLの系においては多量の(10 mLの系と比較して約60倍)沈殿物を回収できる事が示された。しかし、培養スケールが大きくなるにつれて、沈殿物中の有機炭素含量は減少してしまった。このことは、培養に用いる培養槽を大きくしたことにより、増殖(代謝)の過程で生じる鉄酸化物よりも、培地気相中の酸素によって無機的に酸化されることで生じる鉄酸化物の方が増加してしまうためだと考えられた。そこで、鉄源となる塩化鉄溶液を分割し添加する培養法によって、より有機物含量の高い沈殿物が得られるか検討を行った。その結果、鉄源の分割添加を行った系において無機的な鉄酸化物の少ない沈殿物が得られることが明らかとなった。また、大量培養の検討の際に得られた沈殿物を機器分析に供し、構造解析のための初検討を行うことができた。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度の研究目的である鉄酸化細菌の大量培養系の確立について十分検討を行うことができ、目的の菌体外有機高分子を得るための知見を得ることができた。さらに大量培養で得られた有機高分子試料を機器分析に供し、初検討を行うことができたため、達成区分を「当初の計画以上に進展している」とした。
今後は、より有機物濃度の高い試料を得るためにさらなる培養手法を検討する。また、本年度確立した大量培養手法を用いて分析に足る量の試料を集め、鉄を含む有機物の構造解析手法を検討する。
本年度は購入予定だった大型機器の代わりに、大量培養の検討において得られた試料を用いて来年度の研究計画の中で実施する予定であった菌体外有機高分子の初検討を行うこととした。なお、この初検討は培養の妥当性を確認するために必要な分析であったため実施した。そのため大型機器購入予算の一部を次年度に繰越すこととなった。
本年度購入予定であった大型機器の購入に使用する予定である。具体的には大量培養に使用する冷却機能のついたインキュベータや分析試料を調製するためのエバポレーターなどである。
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