研究課題
本年度は、昨年度までに構築した大量培養系にて準備した菌体外有機高分子試料の分析を実施した。当初、有機高分子の分析には培養の過程で生成される酸化鉄の除去が必須と考えていた。しかしながら、酸化鉄を除去するために酸や還元剤を用いて酸化鉄を除去すると、特徴的な構造物を顕微鏡下で確認することが困難となる。また、還元剤や酸の残存が分析に影響することが明らかとなった。そこで、酸化鉄を含む状態で、有機高分子の分析を試みた。その結果、顕微質量分析などの質量分析法を用いることで、部分的な構造を明らかにすることに成功した。また本研究で構築した培養手法を用いることで、深海底より新種の独立栄養化学合成鉄酸化細菌(ET2株)を単離することに成功した。これまでに海洋から単離され生化学的な性状が明らかとなっている鉄酸化細菌は1種しか報告がなく、本細菌が世界で2例目である。新たに単離された鉄酸化細菌も、既知の鉄酸化細菌と同様に菌体外に多量の有機高分子を産生することが明らかとなった。さらに、本培養手法を用いることで、深海環境から混合栄養性の鉄酸化細菌の単離や、浅海からは鉄酸化細菌と鉄還元細菌が共役する培養系を構築することにも成功した。以上のように、本研究では鉄を唯一のエネルギー源とし、海水中のCO2固定により生育する海洋性鉄酸化細菌の培養手法を構築し、鉄酸化細菌の大量培養および新種の鉄酸化細菌の単離、そしてそれら細菌が菌体外に産生する有機高分子の組成・構造を明らかすることに成功した。これらの結果から微生物機能を用いて海水中のCO2から有機物質を生産(CO2を資源化)するシステム構築への知見を得ることが出来た。
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