研究課題
本研究ではトロイダルプラズマにおいて、新古典ポロイダルイオン粘性の非線形性が閉じ込め改善モード遷移に対して担う役割を解明する。そのため、大型ヘリカル装置(LHD)と、TJ-II装置において電極バイアス実験を行う。イオン粘性は磁場リップルとともに増加するが、TJ-II装置はLHDに比べて、実効ヘリカルリップルが10倍大きいため、粘性のフロー依存性や遷移に必要な駆動力に明確な違いが得られる。本研究ではさらに、東北大学ヘリアック装置(TU-Heliac)、コンパクトヘリカル装置(Compact Helical System, CHS)、ヘリオトロンJ装置での電極バイアスHモード遷移との比較を行い、イオン粘性のリップル構造依存性を明らかにする。平成26年度はLHD, Heliotron J, TJ-IIにおいて電極バイアス実験を行い、バイアス時のプラズマの振る舞いを調べた。LHDでは昨年度までに実験を行ってきた磁場配位よりもさらに磁気軸外寄せの配位(磁場リップルの大きい磁場配位)で実験を行い、遷移に必要な駆動力がさらに大きくなることを明らかにした。Heliotron Jでは、これまで、セラミクス系のLaB6を用いて、~0.1 T程度の低磁場条件で2.45 GHz ECHで生成されたプラズマをターゲットに実験を行ってきたが、今年度は、耐熱性の良好な黒鉛性の電極を用いて、1 T程度の強磁場で、ジャイロトロンECH, NBIプラズマをターゲットとした実験を行い、イオン-中性粒子コリジョナリティが小さく、フリクションによる運動量ダンピングの小さい条件でのバイアスデータを取得した。TJ-IIでは、先方研究所(CIEMAT, スペイン)の共同研究者との共同研究体制を構築・強化し、NBIプラズマをターゲットにした実験に臨むことができた。今回使用した電源の出力電圧・電流の範囲内では、電極バイアスによってプラズマを遷移させることはできなかったが、L modeプラズマにおけるプラズマの径方向抵抗率が評価できた。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の当初目標は、(1) LHDにおいて、粘性の大きい磁場配位での、電極バイアスによる遷移条件、並びに、粘性のフローに対する依存性を明らかにすること、(2) TJ-IIにおいて、電極バイアスによって閉じ込め改善を実現すること、であった。(1)はほぼ達成できた。LHDでは、平成25年度までの実験で対象としたRax = 3.53-3.75 mよりも磁気軸外寄せの磁場配位(Rax = 3.9 m)を対象に実験を行い、実効ヘリカルリップルが大きい外寄せの条件に置いて、粘性が大きくなり、遷移に必要なポロイダルトルクが大きくなることを示した。また、HIBPとドップラー反射計を用いることで、コア領域、周辺領域で、粘性のポロイダルフロー(径電場)依存性を取得することができた。(2)については、今年度は、先方研究所(CIEMAT)との協力体制の強化、装置の整備状況の把握に注力し、まずは、実験ができる環境を構築した。今年度は、NBIプラズマを対象に電極バイアス実験を行い、初期的な結果を取得した。TJ-IIの実験で使用したバイアス電源の出力電圧では閉じ込めの遷移は実現できなかったものの、正・負バイアスの両方で、電極バイアスに対するプラズマの振る舞いを調べ、プラズマの径方向の電気抵抗率を評価することができた。これにより、今後の実験で、どの程度の電極バイアス電圧を印加することによって閉じ込め状態を遷移させることができるのかの見通しを得た。これらに加え、京都大学との共同研究として、京都大学のHeliotron Jでの電極バイアス実験を行った。今年度は、耐熱性の良好な黒鉛性の電極を新規に導入することで、1 T程度の強磁場条件で、ジャイロトロンECH, NBIプラズマをターゲットとした実験を行い、フリクションによる運動量ダンピングが小さい条件でのバイアスデータを取得した。これにより運動量ダンピングに対する粘性の効果をこれまでよりも精度よく評価することが可能となった。
平成27年度はTJ-IIの実験に注力する。まず、TJ-IIの既設の電源の出力(最大150 V)では遷移電圧として不十分であることが分かったので、LHDの電極バイアス実験で使用していた電源(650 V)をCIEMATに持込み、TJ-IIにインストールする。また、現在、TJ-IIで使用されている電極は黒鉛製であるが、同一の電極表面積でより大きな電極を流すためには、電極の材質としてタングステン(W)やランタンヘキサボライド(LaB6)を選択し、負バイアス印加による電子エミッションにより、大きな電極電流を実現させる手法が効果的であると考えられる。以上の点をTJ-IIのターゲットプラズマに対して検討し、遷移条件に対して十分な電流を駆動し得る電極素材・表面積の電極の設計・製作を行う。さらに、新しく制作した電極と、核融合研から持ち込む直流電源を用いて、TJ-IIの複数の磁場配位で電極バイアス実験を行い、遷移に必要なフロー駆動力のリップル構造依存性を取得する。得られたフロー駆動力閾値の磁場配位依存性と、理論モデルから評価した粘性の極大値の磁場配位依存性を比較し、実験結果が新古典理論で説明できるかどうか検証する。
配分予算が見込みより少なく、当初予定よりも出力電圧の小さい電源を購入したため、次年度使用額が生じた。
TJ-II用の電極の製作に充てる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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