研究課題/領域番号 |
26820407
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松岡 雷士 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50455276)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 同位体分析 / LIBS / 半導体レーザー / 放射性セシウム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は固体表面に存在する放射性セシウムの同位体比を飛行時間質量分析法を用いずに密封遠隔分析するための技術を開発することである。本技術の確立により、放射性セシウムのレーザー同位体分離の研究の加速が期待できる。 本年度はまず固体中のセシウムを効率よくプラズマ化するための基礎研究として、ヨウ化セシウム結晶の大気圧下でのレーザーアブレーション発光の計測を行った。照射レーザーはNd:YAGレーザーの基本波、二倍高調波、三倍高調波を用いた。波長分解計測の結果、基本波と二倍高調波ではセシウムD2線の発光はほとんど得られず、ヨウ化セシウムのプラズマ化には三倍高調波が投入エネルギーに対して効率的であることが実験的に明らかになった。また三倍高調波による発光にはブロードな発光成分が重複して出現した。パルスエネルギーを変化させて時間分解計測を行った結果、ブロードな発光はエネルギーに対して1次の依存性を持つことから、固体のシンチレーション発光であると予測された。現在は観測光学系の改善を行っており、今後セシウムプラズマの発生と大気中での緩和プロセスについてさらに実験を進めていく。 これと並行して、プラズマ中での同位体分析を行うため、セシウムと性質の近いルビジウム原子について半導体レーザーによるドップラーフリー分光システムの構築を行った。使用可能な半導体レーザーを選別し、ファブリペロー干渉計を自作すると共に、最も単純なドップラーフリー分光である飽和吸収分光を行った。また開発したシステムによる指向性を持つプラズマの計測のテストとして、アルゴンアークジェットプラズマの速度分布を計測した。並行してセシウムの分光システムの構築も進めているが、飽和吸収分光ではセシウムの同位体間の超微細構造を完全には分離できないことが予測されるため、電気光学位相変調器による位相変調分光システムの開発を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヨウ化セシウムのレーザーアブレーション発光分光を通して、セシウムプラズマの効率的な発生法を検証することができた。一方で密度や温度などの物理量に対する定量的な計測が未達成であり、物理プロセスの解明は中途であるため、今後発光分光の高度化と合わせて実験を進めていく。 ドップラーフリー分光システムについては安価な装置で十分な波長分解計測を実施できるシステムの構築に成功した。セシウムの計測については当初の計画以上の高い波長分解能を有する分光法が必要であることが見込まれているが、既に新たな高分解能計測についてシステム開発を開始しており、今後十分に目的を達成可能であると見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の実験を進める過程で、セシウムの同位体分析を高効率で行うことが出来るレーザー分光法の開発が今後の研究において重要な要素となることに着目した。今後はこの課題を解決するための分光法の開発を最も優先して行う。具体的にはレーザーの位相変調による遷移選択的なシグナル取得法を同位体分析に適用するための実験的研究を行う。分析テストの対象としては最終的なターゲットであるセシウム(安定同位体のみ)と安定同位体を二つ持つルビジウムを並行して取り扱う。 同時に本年度実施してきたヨウ化セシウムのレーザー誘起プラズマの発光分光においては、観測光学系を改良してプラズマの緩和プロセスを定量的に解析する実験を行う。 最終的には開発したドップラーフリー分光システムを使用してレーザー誘起プラズマの分析実験を行い、セシウム同位体をプラズマ中で高効率検出するための手法の開発を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体レーザーシステムの開発における大幅なコスト削減と、新たに導入した電気光学位相変調素子などを導入したコスト増加の差額が残額として発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
レーザーシステム開発のための消耗品費、及び、学会発表のための経費として使用する。
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