プラズマのドップラーフリーレーザー吸収分光(飽和吸収分光)の研究を進める過程で、飽和吸収分光によってプラズマを始めとした比較的高圧のガスの緩和プロセスを簡易に観測できること、及び、このプロセスが新たな高効率レーザー同位体分離法につながる可能性が見出された。このため研究対象を当初のレーザー誘起プラズマから一般的な高圧ガスへと拡張し、まず飽和吸収分光を主軸とした実験研究を行った。 アルゴンアークジェットプラズマを計測対象として飽和吸収分光を行ったところ、放電部圧力に応じて飽和吸収シグナルが大きく変化する様子を観測した。特に我々の実験においてはこれまでに報告が無かった飽和吸収シグナルの負の信号成分が観測された。数値計算との比較の結果、負の信号成分は電子励起状態の衝突断面積がアルゴンの準安定状態の衝突断面積に比較して大きいことにより、励起状態でのみ衝突緩和が発生することによって新たなポピュレーションの流入が起こることにより観測された可能性が大きいことがわかった。本実験によって、飽和吸収分光がプラズマの局所的な衝突緩和の情報を計測できる優れた手法であることが示された。 さらにこの緩和過程を利用したレーザー同位体分離の可能性について調査を行ったところ、1980年代に盛んに研究された光誘起ドリフトという現象が、観測された現象に相当すること、及び、既にアルカリ原子の同位体分離実験に使用された例があることがわかった。光誘起ドリフトによる放射性セシウムの同位体分離について独自の理論研究と数値計算を行ったところ、既存の手法を大きく上回る低コスト高効率のレーザー同位体分離が実現される可能性が示された。
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