重粒子線の三次元線量分布測定は重粒子線を使ったがん治療において重要となる。一方で、固体/ゲル状のほとんどの線量計の感度特性は重粒子線のLETの値の変化に伴い、変化してしまう。これによって、正確な三次元線量分布の評価が困難になっている。鉄の酸化反応を利用したフリッケゲル線量計も同様にLETに依存した感度特性を持つが、脱気環境下で水分散ナノクレイを加え調製するとLET非依存の感度特性を持ち、唯一の重粒子線三次元線量計となる。この脱気ナノコンポジットフリッケゲル(NC-FG)線量計は中性の鉄イオンの酸化反応に類似した反応性を示す。つまり、水和電子による鉄の還元とOHラジカルによる鉄の酸化反応が互いに相殺されることで、LET非依存な線量に対する応答特性を示す。本研究ではこれまでの知見をベースに感度特性のLET依存性の制御法について検討した。例えば、放射線の生体影響の指標の一つである生物学的効果比(RBE)などはLET増加に従いエンハンスするが、この指標と類似した感度特性を線量計に持たせるには、感度特性のLET依存性の制御が必要となる。通常のNC-FGは2wt% ナノクレイと1mMの硫酸第一鉄から調製した。これに対して、ラジカル捕捉剤(1 mM 硝酸ナトリウム、7 mM セレン酸ナトリウム、1 mM 硫酸カドミウム、1 mM 過塩酸銀)をそれぞれ添加したサンプルを調製した。サンプルへの照射は放医研HIMACにおいて12C6+ 290 MeV/uを用い行った。照射後のゲルサンプルは碑文谷病院にある1.5 T MRIを用いプロトンの緩和測定R1を評価した。結果、物理線量分布を良く再現する通常のNC-FGでのピークエンハンスと比べると少量のラジカル捕捉剤を添加することによって、0.5~1.8までに相対的な感度特性のLET依存性が変化することが解った。
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