ある種の界面活性剤をシステムに添加すると、エネルギー機能材料であるガスハイドレートの生成速度が劇的に増大することが知られているが、ハイドレート生成促進現象発現機構の詳細は明らかになっていない。 本研究では、界面活性剤が結晶の多孔性を引き起こすことで物質の移動度が高まり、ハイドレートの生成速度が促進されるというアイデア(ポーラス結晶仮説)の検証を試みた。具体的には、低温電子顕微鏡を用いて、結晶成長促進効果の発現レベルに応じて、物質輸送を促すようなポーラス構造が形成されるかどうか調べた。 天然ガスハイドレートの生成速度を測定したところ、Lineral alkylbenzene sulfonate(LAS)およびSodium dodecyl sulfate(SDS)を添加した系で顕著な生成促進効果が確認された(効果はLASの方が高い)。それとは逆に、Dodecyl trimethyl ammonium chloride(DTACL)はハイドレート抑制物質として作用することが明らかになった。 生成促進効果が確認されたサンプルは、無添加システムと比べてラフな表面形態を有し、ミクロンオーダーのボイドが頻繁に観察された。その傾向は特にLAS系で顕著であった。STACLサンプルにおいても比較的凹凸の多い表面が観察されたが、ポーラスな構造を示唆するものではなかった。全ての試料において、これまでの研究で報告されているようなサブミクロンスケールのまだらなパターン(meso-porous)が散見されたが、系による明瞭な違いは認められなかった。 生成促進効果とミクロンスケールの空隙率の間に正の相関が見られた事実は、ポーラス結晶仮説を支持するものである。その一方で、高倍率の観察結果は、促進物質を添加しても、ハイドレート生成を律速する要素の一つと考えられていたサブミクロンスケールの微細構造は大きく変化しないことを示唆している。
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