発達期の神経回路は過剰に形成されたシナプス接続が間引かれていくことで成熟する。本研究課題は、シナプスの発達モデルとして長年研究されてきたニワトリ胚毛様体神経節シナプスを用いて、発達期シナプス除去におけるシナプス前終末側のシナプス接着分子の役割を明らかにすることを目的とする。 平成26年度は、エレクトロポレーションにより標的組織のごく一部を蛍光標識するまばら発現法とCUBIC試薬による組織透明化を組み合わせ、神経節内の個々の軸索走行を可視化・追跡して形態的特徴を定量解析する手法を確立した。これにより、毛様体神経節中では発達に伴って軸索の枝分かれが刈り込まれていくと共にシナプスが成熟してゆき、最終的にプレとポストのニューロンが1対1関係の接続へと収束していくことが明らかとなった。神経回路同士は高密度に絡み合っていることに加えて個々の形態が非常に複雑かつ広大なためアプローチが技術的に難しいが、本実験モデルを用いれば軸索とシナプス前終末の形態発達を定量的に解析が可能であり、それによって研究目的に掲げた発達期シナプス除去をよりマクロな回路レベルの視点から評価することが可能となった。 平成27年度は、前年度に確立したまばら蛍光標識と透明化による神経節内軸索投射の完全追跡技術を更に発展させ、まばらな蛍光標識と目的遺伝子の導入を同時に実現する実験システムを構築した。これにより軸索間の競合プロセスに介入して、軸索の標的支配数を決定するメカニズムにアプローチすることが可能となった。このシステムを用いてN-カドヘリンとNeurexinをそれぞれ過剰発現させた軸索の投射発達を解析した結果、相対的にシナプス前接着分子が多く発現していても最終的な標的支配数は増加しないことが示唆された。今後、発達過程のより精細な解析とともに相対的な発現量の少ない軸索での投射発達解析を予定している。
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