研究課題/領域番号 |
26830003
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
殿城 亜矢子 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90645425)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 老化 / 記憶 / 忘却 / ショウジョウバエ / ドーパミン |
研究実績の概要 |
学習直後の記憶は不安定であるが、固定化のプロセスを経て安定な記憶となるか、あるいは忘却のプロセスを経て消失する。記憶の固定と忘却がバランスをとることで一定の記憶が保たれているが、このバランスは学習の強弱やその種類に依存する。また、このバランスの異常(破綻)が加齢にともなう記憶低下の原因の一つであると考えられる。これまでに、ショウジョウバエ嗅覚記憶をモデルとして研究を行い、老化個体では不安定な記憶は形成されるが、安定な記憶が形成されないことを明らかにしてきた。本研究は、記憶固定と忘却のバランスを制御する普遍的なメカニズムを明らかにすることで、加齢性記憶低下の原因を理解することを目的とする。具体的には、最近明らかになったハエ嗅覚記憶系における記憶固定と忘却のプロセスを担う神経細胞群に着目し、まだ解明されていない記憶固定と忘却のバランスを制御するメカニズムを明らかにすることで、加齢にともなう記憶低下の原因を探る。 1. 記憶固定と忘却バランスのダイナミズム解析 嗅覚記憶学習後に忘却神経のシナプス伝達を遮断することによって情報伝達を時期特異的に止め、記憶保持への影響を調べた。具体的には、忘却を担うドーパミン作動性神経細胞特異的に、シナプス伝達を遮断するshibire温度感受性変異体を発現させたハエ系統を用意した。それらの若齢個体と老齢個体を用いて嗅覚記憶学習後、特定のタイミングにおいて高温に変化させることで時期特異的に忘却のプロセスを遮断し、その後の記憶保持の度合いを測定した。若齢個体では忘却が遮断されたが老齢個体では遮断されなかったことより、ドーパミン作動性神経の活動による積極的な忘却は老齢個体では抑制されていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した内容に関しては、ほぼ全て順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1.分散学習中の記憶固定と忘却バランスのダイナミズム解析:分散学習中にDPM神経細胞のシナプス伝達が必要であることを見出している。分散学習の学習間で記憶固定もしくは忘却神経のシナプス伝達を遮断することによって情報伝達を時期特異的に止め、分散学習中の固定と忘却のバランスのダイナミズムを明らかにする。
2.分散学習中の記憶固定と忘却タイミングのダイナミズムへの加齢による影響の解析:これまでに私たちは、老齢個体では分散学習による安定な記憶が形成されないことを明らかにしてきた。加齢が分散学習中の記憶固定と忘却のバランスに与える影響を明らかにするために、1で用いた計画・方法を老齢個体に適用する。
3.記憶固定と忘却を担う神経回路の加齢にともなう変化の解析:これまでに私たちは、神経間のシナプス結合を可視化することで老齢個体においてDPM神経細胞とキノコ体神経細胞の一部のシナプス結合に異常を示すことを見出している。記憶固定を担う神経細胞、忘却を担うドーパミン作動性神経細胞のそれぞれと、記憶の形成に重要な役割を果たすキノコ体神経細胞とのあいだのシナプス結合を可視化し、それらを加齢にともない経時観察することで、加齢が記憶固定と忘却を担う神経回路形成に及ぼす影響を形態学的視点から明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に購入を予定していたインキュベーターは、他製品で代用可能であることが判明したため次年度の消耗品として使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
実験用動物の飼育費、トランスジェニックショウジョウバエ系統入手費用、分子生物学試薬として使用する。
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