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老化に伴い記憶形成能が低下することは、様々な動物種で見られる現象である。しかし、老化は記憶を一様に低下させるのではなく、記憶の種類によってその感受性は異なる。本研究では、この様な老化への感受性の差が生じる機構を神経回路レベルで明らかにすることで、老化に伴う記憶低下の原因解明に繋げることを目的とした。
ショウジョウバエの嗅覚連合学習は、神経回路が比較的よく同定されているモデル系である。匂いと電気刺激を連合学習させる罰記憶、匂いと砂糖を連合学習させる報酬記憶が確立されている。罰記憶は単回学習の後、24時間程度で忘却するなど不安定であるのに対して、報酬記憶は単回学習の後、24時間以上安定した記憶が保持される。本研究では、i）栄養価の高い砂糖であるスクロースを条件付けに用いた場合は、若齢個体と同様に老齢個体でも安定した強固な報酬記憶が形成されること、ii) 栄養価の低い砂糖であるアラビノースを条件付けに用いた場合は、報酬記憶形成が若齢個体に比較して老齢個体で著しく低下することを明らかにした。これら報酬記憶形成の老化への感受性の差は、砂糖への感受性や嗜好性を制御するショウジョウバエ神経ペプチドF発現神経細胞やドーパミン神経細胞の機能や投射パターンなどの長期的な変化によるものであることを解明した。このことより、個体にとってより生存利益の高い砂糖への感受性や嗜好性が加齢に伴い向上する一方で、生存利益に関与しない砂糖への嗜好性が低下するように長期的に神経回路が変化することによって、報酬記憶の加齢に対する感受性の差が生じる可能性が示唆された。
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