研究課題
<1. カルシウムイメージングによる神経細胞の活性測定>について、4Dイメージングによって神経活動を測定する上では、神経細胞を同定して、同じクラスの神経細胞の活動を個体間で比較することが重要である。神経細胞の同定のためには細胞核が標準的な位置に存在する必要があるが、4Dイメージングの際に線虫を保定する微小流路内では、線虫が押しつぶされて核の配置が歪んでしまい、神経細胞の同定が困難になることがわかった。線虫をうまく保定しつつも核の配置が歪まないように、微小流路の形状を様々に調整した結果、最大150個(8割)程度の神経細胞を同定できるようになり、神経活動を個体間で比較できるようになった。哺乳類の神経活動の解析においては、複数のスパイク列から意味のある信号を取り出すために、PCAやNMF、ICA等の粗視化手法が汎用される。150細胞程度が同定された2個体のデータについて、上記の粗視化手法を適用した結果、刺激依存的な神経活動を抽出するためにはICAが適切であることや、刺激依存的な神経活動は感覚神経の周辺に限局していることがわかった。<2. 実験データに基づいた数理モデルの作成>について、英国MRCの小田およびde Bonoとの共同研究として、線虫の酸素走性行動の数理モデル化に取り組んだ。酸素感覚受容に関わる神経活動を測定し、刺激と応答の関係を再現する数理モデルを作成することに成功した。この感覚神経モデルの下流に、ピルエット機構を生み出す行動モデルを追加したところ、線虫の酸素走性行動の特徴を再現することができた。環境の感知から神経活動と行動を再現できる包括的な数理モデルの開発によって、環境の情報が神経系でどのように表現され、どのように行動出力へ結びつくかを定量的に明らかにすることができた。これらの成果をまとめた論文はPNAS誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究項目<1>に関する論文に加えて、本年度は研究項目<2>に関する論文を掲載することができた。
引き続き<1. カルシウムイメージングによる神経細胞の活性測定>を行い、加えて<2. 実験データに基づいた数理モデルの作成>と<3.数理モデルの解析と動的特性の検証>を行う予定である。<1>については、代表者の研究室に新たに設置されたスピニングディスク型共焦点顕微鏡を活用して、4Dイメージングのデータ取得を進め、詳細な個体間比較を行う。取得したデータの解析が律速になると考えられるので、神経細胞核の検出や追跡、細胞同定等において高精度化・自動化をさらに進める。また、本年度見出したICA法に加えて、カオス理論や深層学習なども活用して、全神経の活動の時系列データから、塩濃度勾配などの外部環境の情報がどのように神経回路中を伝播しているのか明らかにすることを目指す。<2>については、本年度発表した酸素走性行動の数理モデルをベースとして、塩濃度刺激に対する感覚神経の応答を再現しつつ、塩濃度勾配のある環境中で好みの塩濃度へ集合する線虫の行動を再現できるような数理モデルの開発を目指す。
本研究は本来H29年度までの予定であったが、最終的な成果をまとめるために時間的な猶予が必要となり、研究期間を延長することになったため。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 9件、 招待講演 4件)
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