本研究は、大脳皮質聴覚野(聴覚皮質)に見られる複数の亜領野からなる「機能マップ」に関して、その神経回路基盤となる「視床から聴覚皮質への並列入力回路」を我々がマウスで同定したことに基づき、その並列回路構築の分子メカニズムを解明することを目的としていた。そのために、①視床において聴覚皮質への並列投射パターンに対応した発現様式を示す遺伝子の同定、②視床遺伝子発現パターンの操作による聴覚皮質機能マップへの影響、を明らかにする計画を立てた。平成26年度は、DNAマイクロアレイを用いてマウス視床内側膝状体腹側核(MGv)に特異的な遺伝子の探索を行った。その結果、発達期マウスのMGvにおいて発現勾配を示す遺伝子を見出し、上記①の目標を達成した。平成27年度には、同定した遺伝子のMGvにおける異所性発現または発現抑制に対する効果の解析に着手したが、技術的な課題が多く、子宮内エレクトロポレーション法を用いたMGvへの正確な遺伝子導入法の再検討、発現抑制コンストラクトの再構築、さらなる特異的遺伝子の取得方法の見直し等を、期間を延長して行ってきた。最終年度の平成28年度も引き続き、実験条件の検討を行ったが、MGvにおける遺伝子発現パターンの操作を実現するには至らなかった。
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