研究課題/領域番号 |
26830014
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
澤田 雅人 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20645288)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 成体脳のニューロン新生 / 脳室下帯 / 嗅球 / ニューロン移動 |
研究実績の概要 |
1. Sema3e-PlexinD1シグナルの側方突起形成における役割:新生ニューロンが分化・成熟する過程では先導突起の他に側方突起を形成しながら移動を停止する。PlexinD1をノックダウンするベクターを新生ニューロンに導入し、側方突起形成について評価した結果、Sema3E-PlexinD1シグナルは側方突起の形成を抑制することが分かった。
2. アクチン細胞骨格の再編成と側方突起形成の関係:側方突起の形成におけるアクチン重合の様子を解析するために、アクチンプローブを新生ニューロンに導入し、詳細に解析した。その結果、先導突起の一部でアクチンが重合して側方突起が形成されることが分かった。さらに、形成された側方突起はF-アクチン豊富な構造体であることが明らかになった。
3. 側方突起形成と樹状突起形成の関係:組織レベルで、新生ニューロンの側方突起が樹状突起に発達する可能性およびPlexinD1の関与の2点について明らかにするために、共焦点顕微鏡およびスライス培養法を用いた新生ニューロンの移動形態のタイムラプスイメージングを行った。その結果、移動停止過程では、新生ニューロンは側方突起を形成し、そのうちの一部が徐々に発達して樹状突起様の構造へ変化していく様子を明らかにした。さらに、新生ニューロンにPlexinD1および組み換え酵素Creを同時に発現させるウイルスベクターを作製し、レポーターマウスに感染させて新生ニューロンを標識する実験系を確立し、スライス培養下でのタイムラプスイメージングを開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の計画目標をほぼ全て達成した上で、平成27年度の計画の一部を開始しているため。 平成26年度は、1. Sema3E-PlexinD1シグナルの側方突起形成における役割、2. アクチン細胞骨格の再編成と側方突起形成の関係、3. 側方突起形成と樹状突起形成の関係、に関する実験のほとんどを完了し、移動する新生ニューロンにおける側方突起の形成およびSema3E-PlexinD1シグナルが与える影響を明らかにすることができた。3. のPlexinD1発現実験については、当初計画していた、新生ニューロンを脳室下帯から取り出し、PlexinD1発現ウイルスを感染させて移植する方法が実現できなかった。しかし、代替案として提案していた、PlexinD1および組み換え酵素Creを発現するウイルスを作成することによって、予定通りの実験計画を開始している。本結果から、新生ニューロンの移動形態の制御が嗅球内の配置を決定するメカニズムを明らかにできる可能性がある。 これらに加えて、平成27年度計画である、側方突起形成の細胞内分子メカニズムの解明にむけて実験を開始している。FRETプローブを用いた低分子量Gタンパク質の活性評価では、すでにFRETプローブおよびPlexinD1ノックダウンベクターを培養新生ニューロンに共導入する条件を確定させている。さらに、Sema3E-PlexinD1シグナルが低分子量Gタンパク質の活性に与える影響をFRETイメージングを用いて解析している。 以上より、本研究の目的の達成度としては、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である、新生ニューロンの移動形態制御と嗅球内配置機構について、移動する新生ニューロンの側方突起形成におけるSema3E-PlexinD1シグナルの重要性を明らかにした。これまで、移動する新生ニューロンがどのようなメカニズムで脳内の適切な場所で移動を停止し、分化を開始するかは不明であった。本研究でこれまでに得られた結果は、Sema3E-PlexinD1シグナルが、新生ニューロンの移動形態を制御することで嗅球内の配置を決定することを強く示唆している。移動する新生ニューロンの形態変化にはアクチン細胞骨格が関与していることを明らかにしたため、今後、アクチン細胞骨格制御因子に焦点を絞って分子機構の解析をすすめる。具体的には、Sema3E-PlexinD1シグナルがどのような分子機構で新生ニューロンの移動形態を維持するのかについて、確立した新生ニューロンの培養システムおよびFRETプローブや光刺激性プローブを用いた分子イメージング法で明らかにしていく予定である。 また、嗅球は嗅覚入力を受容する一次中枢であり、嗅覚入力が嗅球に到着した新生ニューロンの移動・成熟過程に影響を与えることが報告されている。このことから、これまでに確立した嗅覚刺激法(Kato, Kaneko, Sawada et al., PLoS One, 2012)を用いて、嗅覚刺激下における新生ニューロンの配置の変化およびSema3E-PlexinD1シグナルの役割についても解析し、感覚入力が脳内のニューロン配置を変化させる可能性についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に計画していた実験の多くが順調に進み、消耗品費の出費を抑えることができたため。培養実験で用いる遺伝子導入のための試薬は高額であるが、あらかじめ実験条件を決定してから実験を実施したため、予定よりも少ない実験回数で期待される結果を得ることができた。本年度の実験結果を踏まえて、次年度は遺伝子導入を伴う培養実験の回数が増加する予定であることから、次年度使用額として用いることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、さまざまな分子プローブを用いた培養実験を計画し、本課題の分子メカニズムをさらに詳細に解析する予定である。本実験に用いる分子プローブの種類が多いことと、遺伝子導入に関する試薬が高額であることから、実験にかかる費用が大きくなることが想定される。したがって、この実験を中心に使用する予定である。
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