大脳皮質の神経細胞は、早生まれの神経細胞ほど深層に、遅生まれの神経細胞ほど浅層に局在するという“inside-out様式”の6層構造を形成している。脳室帯で誕生し、脳表面に向かって移動してきた神経細胞は、必ず辺縁帯直下で移動を停止し、辺縁帯に侵入することは無い。これは神経細胞が辺縁帯に侵入してしまうと、遅生まれの細胞が入るスペースが無くなり、早生まれの細胞を追い抜くことが出来なくなるからではないかと予想される。言い替えれば、辺縁帯に入らないことで遅生まれの細胞がその間に潜り込んで追い抜くための隙間を作っているのではないかと考えられる。 Lis1 (Pafah1b1)は滑脳症の原因遺伝子として知られているが、Lis1を過剰発現すると、通常は辺縁帯の直下で停止するはずの神経細胞が、辺縁帯内に侵入することを発見した。Lis1を過剰発現された神経細胞の動態について詳細な解析を行ったところ、辺縁帯に侵入した神経細動は、その後も辺縁帯~大脳皮質表層部に位置し続け、最終的に本来配置すべき層よりも表層に位置することが分かった。実際に、1日遅く産まれた神経細胞と位置を比較してみても、それよりも同程度かやや表層に配置する細胞も認められた。また、Lis1の過剰発現により、本来分布すべき層よりも表層に分布することになった神経細胞は、本来分布すべき層の神経細胞に特有のマーカーではなく分布した層の神経細胞に特有のマーカーを発現するようになるものも認められた。 Lis1を複数コピーもつ人は知的障害などの神経・精神系の異常を呈することが知られており、Lis1が過剰になることで神経細胞の移動と層形成に異常を生じることが、生後の大脳皮質の機能に大きな影響を与えるものと考えられた。
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