研究課題
マウス小脳プルキンエ細胞へ、子宮内電気穿孔法を用いてEGFP蛋白質を発現させ、樹状突起形態をin vivo2光子イメージング法によって観察した。その結果、生後8日目から、1~2日間の間に、複数の樹状突起が形態を変化させながら退縮し1本化する過程を明らかにすることができた。一方、プルキンエ細胞における神経活動を、内向き整流性カリウムチャネルの過剰発現によって抑制した場合においては、このようなダイナミックな形態変化が観察されず、樹状突起が1本化しないことが、in vivoイメージングによって明らかとなった。さらに、神経活動を抑制したプルキンエ細胞においては、生後6日目の時点で樹状突起の伸長方向に異常が見られることを見出した。すなわち、生後6日目以前から神経活動が樹状突起形態を制御していることが示唆された。プルキンエ細胞へ蛋白質性カルシウム指示薬GCaMP6を発現させ、in vivoカルシウムイメージングを行ったところ、生後8日目のプルキンエ細胞において一過性のカルシウム濃度上昇が観察された。このカルシウム上昇は、樹状突起全体で一様に起きていることが示唆された。さらに、神経活動依存的なカルシウム濃度上昇が樹状突起形成に関与しているかを検討するため、P/Q型電位依存性カルシウムチャネルをプルキンエ細胞においてノックダウンしたところ、樹状突起の1本化が阻害されることがわかった。すなわち、神経活動によるカルシウムシグナリングが樹状突起形成を制御する可能性が示された。さらに、プルキンエ細胞へ投射するシナプス形成に異常をきたす各種遺伝子改変マウスにおいて、プルキンエ細胞樹状突起の形態を検討し、プルキンエ細胞へ投射する特定の種類のシナプス入力が、樹状突起1本化を制御する可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
カルシウムイメージングおよび、細胞内カルシウムの役割についての検討は、研究計画に沿って順調に進展していると評価できる。また、プルキンエ細胞へシナプスを入力する各種細胞への遺伝子導入法は、確立しつつある。一方当初の計画では、確立した遺伝子導入法を用いて、プルキンエ細胞へのシナプス形成をイメージングすることで、樹状突起形成メカニズムを明らかにしようと計画していた。しかし、実際に研究を遂行するに当たり、どのようなシナプス入力が樹状突起形成を制御するのかを、あらかじめ検討してから、そのシナプス形成についてイメージングを行うべきとの結論に至った。そのための予備的実験を新たに追加したため、当初計画していたイメージングは次年度に行うこととした。ただし、追加した実験によって得られた知見を活用することで、研究計画を有利に進めることができると考えられるため、研究全体の進展に遅れはないと考えている。したがって、おおむね順調に進展していると評価できる。
当該年度の研究成果はおおむね順調であり、今後の研究計画を大きく変更する必要はないものと考えられる。したがってこれまでに得られた知見を踏まえ、引き続き研究計画に沿って樹状突起1本化の分子機構を解明していく。すなわち、プルキンエ細胞へのシナプス形成過程とその樹状突起形態制御機構を明らかにする。また、DREADD法を用いてin vivoで神経活動の必要性および十分性を評価する。さらに、細胞貪食機構が樹状突起退縮に関与するかどうかを明らかにする。
研究助成金の効率的な調達の結果として、当初の予定より使用額が圧縮でき、未使用額が生じた。
上の理由により生じた次年度使用額を、次年度の備品および消耗品の購入に使用することで、研究のさらなる効率化を図る。
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Neuron
巻: 85 ページ: 316-329
10.1016/j.neuron.2014.12.020.