研究課題/領域番号 |
26830018
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石川 充 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (10613995)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 細胞移動 / 進化生物学 / オルガノイド / SRGAP2 / ゲノム編集 / Neurogenin2 / 不死化リンパ芽球 |
研究実績の概要 |
これまで、ヒトiPS細胞からの神経細胞への分化誘導方法については様々な議論がなされてきた。しかしながら、興奮性神経細胞への分化誘導技術の開発は遅れていた。 本研究においては、SRGAP2遺伝子変異を有する細胞からの神経細胞誘導を行うために、Tet-Onシステムを用いたNeurogenin2遺伝子の時期特異的過剰発現による、iPS細胞からの直接的神経細胞への誘導法を確立した。これによって比較的均一な細胞種(興奮性錐体細胞)を作出することが可能になった。この結果、SRGAP2遺伝子が神経細胞形態に与える影響を評価しやすくなると予想される。 さらに、神経細胞移動の評価法として、大脳皮質の層構造を再現する脳オルガノイド形成技術がほぼ確立した。実際に、免疫染色で、脳の各層のマーカーとなるタンパク質の発現が認められた。 今後、これらの新規技術を用いて、SRGAP2遺伝子変異細胞株が呈する、細胞形態および、細胞移動の表現型の評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトiPS細胞からの神経細胞への誘導方法として、PiggyBacベクターを用いたNeurogenin2遺伝子発現系を構築し、機能評価しやすい細胞の純化を行うことができた。さらに、大脳皮質の層構造の再現を行う脳オルガノイド形成の作出を行った。これらの技術開発を通して、格段にSRGAP2遺伝子機能が呈する表現型解析が簡便かつ的確になることが見込める。 一方、SRGAP2遺伝子に変異を有する患者細胞iPS細胞の作成について、既に患者は死亡しており、患者T細胞からのiPS細胞の樹立は不可能であることが、本年度判明した。そのため、簡便にSRGAP2変異iPS細胞を作製することが困難になった。この点は、研究推進の点で停滞した。しかしながら、患者血液由来の不死化リンパ芽球(LCL)の存在について調査を進めた。その結果、横浜市立大学医学部において、患者LCLの存在が認められた。現在、共同研究として、患者LCLからのiPS細胞作製を行う倫理体制を準備中である。 さらに、SRGAP2遺伝子コピー数がヒトとは異なる非ヒト霊長類によるiPS細胞解析の準備も行っている。これは京都大学霊長類研究所との共同研究である、チンパンジーのプライム型iPS細胞という、ヒトに近い分化状態のiPS細胞である。この結果、SRGAP2遺伝子コピー数の違いが、これまでよりも明瞭に種の違いを示すものとなる、と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
SRGAP2遺伝子変異を有する患者iPS細胞の作製を行う。既に予定していた患者が死亡したため、T細胞からの樹立が不可能になった。しかし、患者由来不死化リンパ芽球(LCL)からのiPS細胞樹立を行う。この技術は既に開発済みで、簡便かつ確実に行う技術を筆者は有している。具体的には、初期化因子を搭載したエピソーマルベクターをエレクトロポレーション法でLCLに導入することで、iPS細胞コロニーを作出する。 一方、SRGAP2遺伝子変異細胞株を人為的に作出するために、Crispr/Cas9によるゲノム編集を行う。既に、標的とするガイドRNAは米国MITとの共同研究により準備が完了している。 また、作成されるiPS細胞について、細胞移動を評価しやすいように、蛍光標識をさせる。具体的には、EF1プロモーターの下流にVenusを搭載した、PiggyBacベクターの導入により、株化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
SRGAP2遺伝子変異を有する患者の末梢血T細胞からのiPS細胞を予定していたものの、患者本人が、死亡していたことが、当該年度で明らかとなり、この方法でのiPS細胞の樹立は断念した。そのため、当該年度での、iPS細胞樹立に用いる各種細部生物学実験用の消耗品を中心とした支出が減ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に末梢血T細胞由来iPS細胞を作成するつもりであった、患者(既に死亡していた)について、生前作製済みであった不死化リンパ芽球(LCL)由来のiPS細胞の作出を行う。そのため、新規iPS細胞樹立用の各種細胞生物学実験用の消耗品を中心に支出する予定である。
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