大脳新皮質は、哺乳類のみに存在する大脳の表面を覆う領域で、多くの認知機能に関わる。6層構造からなる大脳新皮質は、各層の神経細胞が異なる入出力を持ち、記憶や学習が関与する認知課題を行う際には、様々な領域とネットワークを形成し、情報処理を行っている。運動技能は、繰り返し練習して身につけた動作で、運動学習が重要な役割を果たす。学習は段階的に進行し、初期は動きが未熟でぎこちないが、練習により行動の正確さや速度が増し、後期に運動は自動化される。これまでの研究では、in vivo 2光子カルシウムイメージングで、げっ歯類の運動野の浅層第2/3層および深層第5層の神経細胞の活動を解析し、運動学習によって、第2/3層よりも第5層の神経細胞の方が、運動課題実行時、発火頻度が上昇する(課題関連細胞になる)ことを明らかにした。本研究では、アデノ随伴ウイルスが順行性だけでなく逆行性にも感染する様式を利用した遺伝子導入法を用いて、運動野第5層の神経細胞の中で、反対側の線条体に投射している皮質-線条体投射神経細胞、もしくは脊髄に投射している皮質-脊髄投射神経細胞のみに蛍光カルシウムセンサーのGCaMPを発現させ、それらの神経細胞の活動を観察する系を立ち上げた。具体的には、左脳運動野に「アデノ随伴ウイルスセロタイプ9(AAV9)-human synapsin 1 プロモーター-LoxP-stop-LoxP-GCaMP」を注入し細胞体から順行性に感染させ、さらに、右脳線条体、もしくは脊髄に「AAV9-CMVプロモーター-Cre」を注入し、運動野から線条体、もしくは脊髄に投射している神経細胞の軸索末端から、逆行性に感染させた。
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