研究課題/領域番号 |
26830024
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
松居 亜寿香 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (30599684)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バレル皮質 / 子宮内電気穿孔法 / 初代神経細胞培養 / 樹状突起 / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
生後の脳発達では、外部刺激に応じて必要な樹状突起やシナプスを維持し、不要な樹状突起とシナプスを除去することで、より効率的な神経回路へ再編成する過程がある。この過程は無脊椎動物から脊椎動物の神経回路形成において、普遍的な現象であるにも関わらず、そのメカニズムは不明である。 我々のこれまでの研究で、マウスでヒゲからの感覚情報を処理する、大脳皮質の第一次体性感覚野のバレルフィールドをモデル系とし、バレルに発現する遺伝子Btbd3が神経入力依存的な樹状突起の形態制御に関わることを明らかにした。 より詳細なメカニズムの解明を目的とし、Btbd3の3つの機能ドメインのうちどのドメインが樹状突起の形態制御に重要であるかを同定するため、それぞれのドメインを欠損したベクターを作製し、ノックダウンベクターと共にin utero electroporation法を用いて、マウス胎児脳に導入した。その結果、不要な樹状突起の除去に関わるドメインもわかってきた。また大脳皮質初代分散培養系を用いた実験から、神経活性に応じたBtbd3タンパク質の局在変化に必要なドメインについても明らかにできた。さらにこの局在変化にはタンパク質のリン酸化が関わる事もわかった。 Btbd3は樹状突起の形態を制御するようなドメインを持たない。このため、Btbd3と共に樹状突起の形態制御に関わる分子を探索することも行った。protein-protein chipから得られた候補分子、また過去にBtbd3と相互作用することが報告された分子の発現解析を行った。いくつかの分子は樹状突起の形態変化が起こる時期に大脳皮質で発現することを確認した。 メカニズムの全容解明には至っていないが、少なくともBtbd3のどのドメインが樹状突起の形態制御に関わるのか、明らかにすることは出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Btbd3の各ドメイン欠損型ベクターを用いて、樹状突起の形態制御及び局在変化に重要なドメインを同定することが出来た。当初はBtbd3を介した樹状突起の形態制御に関わる分子メカニズムの解明のために、まずBtbd3の各ドメインに相互作用しうる分子の同定を目指して、候補分子の探索に重きをおいた実験を予定していた。しかし、初年度でBtbd3と共に機能すると思われる候補分子を見つけることができ、また大脳皮質分散培養系を用いて、神経活性依存的なBtbd3の局在変化にはタンパク質のリン酸化が重要なことを見出した。今後はさらなる候補分子の同定、解析よりも、現在ある候補分子とBtbd3を中心とした、解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、分散培養系を用いて、視床軸索に存在する樹状突起の形態制御に関わる分子の網羅的な探索にも着手する予定であったが、別の方法でBtbd3と共に樹状突起の制御に関わると予測される候補分子が取れてきたので、今後は、この候補分子とBtbd3がどのようにして樹状突起の形態制御に関わるのかを明らかにするための解析を進める。 神経活性依存的なBtbd3の局在変化にはリン酸化が重要であることがわかったので、まずはリン酸化がBtbd3自身、または候補分子に起こるのかを二次元電気泳動法など生化学的手法を用いて調べる。 また、バレルフィールドでの樹状突起の形態解析から、視床軸索の入力を多く受け取る樹状突起(hollow側)が残り、septa側にはみ出た樹状突起は除去されていくことがわかっている。このため、神経活性の頻度や強さが実際に樹状突起の形態やBtbd3の局在変化にどのような変化を及ぼすのか、を生きている細胞で観察する必要がある。in vivoで観察を行うことは技術的に非常に困難であるため、大脳皮質分散培養系を用いて、live imagingを行う。神経活動の状態を観察するためにGCaMP6、Btbd3の局在は蛍光タンパク質を融合させたBtbd3、また樹状突起の形態は蛍光タンパク質を導入することで観察を行う。
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