研究課題/領域番号 |
26830029
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
森田 晶子 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (70647049)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 血液脳関門 / 血管新生 / 免疫 |
研究実績の概要 |
脳の中にも一般的な血液脳関門を持たず血中の液性情報を感知する感知系脳室周囲器官が存在する。感知系脳室周囲器官は中枢における免疫応答の起点であり、悪心・嘔吐といった生命維持に重要な機能を持つが、それらの機能を果たすために必要な、高い透過性を示す特殊な血管構造の構築機序は不明である。本研究では、血管新生を促進し血管透過性を上げる血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor; VEGF)の発現が感知系脳室周囲器官において特異的に高く、盛んに血管内皮細胞が増殖し、新規血管のフィロポディアも多数認められることがわかった。また、細胞増殖阻害剤のAraCを投与すると、血管新生が抑制されるとともに血管の透過性が低下した。以上の結果を1本の論文にまとめ報告した。この新生血管の構造的な未成熟が感知系脳室周囲器官における血液脳関門の不全の主たる要因であると考えている。 endotoxinを投与すると、その情報は感知系脳室周囲器官を介して脳へ入るといわれている。中でも脳弓下器官を損傷すると、炎症反応を引き起こすリポ多糖(LPS)投与後の発熱反応が低下する。上記のとおり、脳弓下器官では正常状態で内皮細胞の増殖が多数認められ血管は高い透過性を示す。ところが、マウスにLPSを腹腔内投与して免疫応答を誘導すると、増殖内皮細胞数が有意に減少し、血管の透過性は著しく低下した。原形質小胞1タンパク質(PV-1)は有窓性血管の隔膜に特異的に発現し、血管の物質透過性の指標にもされている。脳弓下器官ではPV-1の高い発現が認められるが、LPS投与後PV-1の発現が有意に低下した。以上のことから、脳弓下器官ではLPS投与後血管のリモデリングが生じ、透過性が低下することが明らかになった。私はこの現象が脳の保護機構の一つと考えて研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感知系脳室周囲器官において持続的血管新生がおきていることを1本の論文にまとめ報告した。感知系脳室周囲器官の一つ脳弓下器官については当初の目的に沿い、LPS投与後の血管新生と透過性の変化を明らかにし、それに関与する因子を同定した。しかし、その他の感知系脳室周囲器官で同様の実験を行い、sickness behaviorや自発行動量といった個体レベルの変化との関係を明らかにすることを課題として残している。
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今後の研究の推進方策 |
脳弓下器官以外の感知系脳室周囲器官である最後野と終板器官についても同様にLPSを投与することで血管構築変化が生じるか確認する。この実験は以降の薬剤投与実験の薬剤投与経路を決定するのに必要である。血管構築変化が脳弓下器官に限定される場合は脳弓下器官に血管構築変化を阻害する薬剤を局所投与し、他の感知系脳室周囲器官でも共通して認められる場合は側脳室内投与する。そしてsickness behaviorや自発活動量といった個体レベルの変化との関係を明らかにする。同様の薬剤投与法を用いて、抗がん剤投与後の血管透過性低下を阻止し、げっ歯類の吐き気の指標であるパイカ行動実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice® Standard(TP650)の購入を予定していたが、急遽他の研究者に借りることが可能になったため、本年度は消耗品の使用にとどまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の研究成果を北米神経科学学会で発表する旅費として使用する。また、消耗品、特に実験動物と免疫組織化学用抗体の購入に当て、研究をさらに効率化する。
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