研究課題/領域番号 |
26830042
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
石塚 佑太 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50614179)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経細胞 / シナプス / 樹状突起スパイン / drebrin / アルツハイマー病 / Aβオリゴマー / エピジェネティクス / ヒストン脱アセチル化酵素 |
研究実績の概要 |
アクチン結合タンパク質drebrinは樹状突起スパインに局在し、スパイン形成・メンテナンスに関わるタンパク質であり、様々な刺激により、その局在を変化させる。また、drebrinの局在の変化に伴いスパインの形態が変化することから、シナプス機能に非常に重要な働きをしていると考えられている。さらに、アルツハイマー病や認知機能障害においてdrebrin発現量が低下していることから、認知機能とdrebrinの関連性が強く示唆されている。 本研究はAβオリゴマーによるdrebrinのスパインへの集積低下のメカニズム、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤がAβオリゴマーによるdrebrin集積低下を防ぐメカニズムをエピジェネティック制御に着目して明らかにすることを目的としている。本年度は、マウス海馬初代培養神経細胞にAβオリゴマーを添加することでアルツハイマー病細胞モデルとし、Aβオリゴマーによるシナプス障害およびHDAC阻害剤SAHAのシナプス保護作用の解析を行った。第一に、培養神経細胞をAβオリゴマーに暴露した結果、スパインへのdrebrinの集積が低下したことを見出した。その一方で、本研究で用いた比較的低濃度のAβオリゴマー(100 nM)では、drebrinタンパク質の発現量は減少せず、さらに樹状突起スパインの密度変化も認められなかった。第二に、Aβオリゴマー添加前にSAHAを添加しておくと、drebrinの集積低下を防ぐことを見出した。 これらの結果から、(1)Aβオリゴマー暴露によるdrebrinのスパインからの消失がdrebrin発現量の低下および樹状突起スパイン減少が生じる前に起こる。(2)HDAC阻害によってヒストンのアセチル化が亢進することでスパインからのdrebrin消失を防ぐ機構が活性化したこと、が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度には(1)Aβオリゴマーによるシナプス障害の解析、および(2)HDAC阻害剤(SAHA)によるシナプス保護作用の解析、を行う計画であった。(1)に関してはAβオリゴマーによるdrebrinの樹状突起スパインからの消失が、発現量の低下および樹状突起スパインの減少といったアルツハイマー病発症後期に見られるような現象に先んじて生じている可能性を示唆する結果を得られた。さらにAβオリゴマーの濃度を高くすると、drebrinの先行研究で明らかになっているdrebrin発現量の低下が見られることから、低濃度Aβオリゴマーに暴露させた神経細胞はアルツハイマー病の初期段階を細胞レベルで再現したアルツハイマー病細胞モデルとして利用可能な研究ツールであることが示唆された。(2)に関しては、HDAC阻害剤SAHAがAβオリゴマーによるスパインからのdrebrin消失を防ぐことから、シナプス機能とエピジェネティック制御の関連を明らかにし、上記研究成果(1)(2)についての論文を発表した(Ishizuka et al., 2014)。 以上のことから研究計画は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究が概ね順調に進展していることから、研究計画に則って推進する。平成27年度は(3)AβおよびSAHAによるdrebrinのリン酸化の変化の解析、(4)AβオリゴマーによるHDAC活性の変化とシナプスタンパク質発現変化の解析、(5)AβおよびSAHAによるNeprilysinの発現の変化、について解析を行う。 (3)では、これまでの結果よりAβはdrebrinのリン酸化の変化を介して、スパインでのdrebrin減少を引き起こす可能性が考えられる。一方、SAHAはHDACを阻害する事により、シナプスタンパク質の発現・シナプスへの集積を促進し、drebrinのリン酸化変化を介してシナプスを安定化させる可能性も考えられることから、AβとSAHAによるdrebrinのリン酸化変化をwestern blottingおよびリン酸化drebrinの細胞内局在を免疫染色により解析する。(4)では、アルツハイマー病モデルマウスでHDACの活性化が生じている事から、Aβオリゴマーが直接エピジェネティックな変化を引き起こすかを解析する。また、Aβによる他のシナプスタンパク質の発現量、分布の変化も解析する。(5)では、Neprilysinはシナプスに存在し、Aβを分解する作用を持つ。モデル動物の研究からアルツハイマー病に関わっていると考えられており、Neprilysinの発現低下がAβの蓄積を引き起こし、アルツハイマー病リスクを増加させることが示唆されている。そこで、AβおよびSAHAを添加し、定量的RT-PCR、western blottingにより発現変化を、免疫染色法およびGFP-Neprilysinの強制発現系で分布の変化をそれぞれ調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経細胞への遺伝子導入用の新規の設備備品(Lonza Nucleofector)を用いて、初代培養神経細胞へ遺伝子導入する予定であったが、遺伝子導入試薬による代替法を用いた方が研究を進める上で効率が良いことがわかり、購入しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、研究計画に則って、実験用動物、細胞培養試薬・器具、生化学用試薬・器具、遺伝子導入試薬および成果発表のための旅費、印刷費などに使用する予定である。
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