研究実績の概要 |
drebrinは神経細胞のスパインと呼ばれる他の神経細胞から情報の受け取る部位(ポストシナプス)に局在しており、アルツハイマー病(AD)や認知機能障害において発現量が低下している事から、認知機能との関連性が強く示唆されている。本研究はAβオリゴマー(AβOs)によるdrebrinのスパインへの集積低下、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤がAβOsによるdrebrin集積低下を防ぐメカニズムを明らかにする事を目的とした。 26年度は培養神経細胞にAβOsを添加することでAD細胞モデルとし、AβOs暴露により惹起されるシナプス障害およびHDAC阻害剤SAHAの前処理によるシナプス保護作用の解析を行った。その結果、(1)AβOs暴露によるdrebrin発現量の低下および樹状突起スパイン減少の前にdrebrinのスパインからの消失が起こる、(2)HDAC阻害によってスパインからのdrebrin消失を防ぐ、事を明らかにし、その成果を2014年に発表した(Ishizuka et al., 2014 Neurochemistry International)。本年度は、他のシナプスタンパク質の変化を解析したが、プレシナプスタンパク質synapsin Iおよびポストシナプスタンパク質PSD-95はAβOs暴露による局在変化を生じなかった。この事は、drebrinは他のシナプスタンパク質よりもAβOs暴露への感受性が高い事を示唆している。 26・27年度の成果より、本研究で用いたAβOs暴露神経細胞はAβOs暴露により惹起されるシナプス障害の初期段階を観察できる事から、ADで生じている細胞レベルでの初期異常を解析できる有用なツールである事が明らかとなった。また、AβOs暴露によりdrebrinはスパインから消失するが、その消失はHDAC阻害剤で防ぐことができる事から、HDACによるdrebrin局在制御の存在が明らかとなった。以上の事は、HDACが認知機能障害やADの新規治療ターゲットとなり得る事を示唆している。
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