研究課題
本研究26年度は、申請時の計画通り、【①Ca2+依存的酵素の活性化プローブの開発】、【②複数シナプス刺激法の開発】、【③単一シナプス体積縮退誘導プロトコールの確立】、の3点に関して研究を行い、以下の結果を得た。まず、【①Ca2+依存的酵素の活性化プローブの開発】に関しては、新規蛍光タンパク質を用いてCaMKIIα及びβの高輝度改良型プローブを開発した。これらのプローブが実際にレポーターとして機能することを確認するため、蛍光プレートリーダーもしくは神経細胞にて応答性を確認した。また、Ca2+依存的酵素であるカルシニューリンに関して、三次元結晶構造とバイオインフォマティクスを利用して、新たな改良型プローブの設計・作成とスクリーニングを行い、神経細胞においてこれまでのものよりも大きな変化率を示す非常に高性能の新型プローブの開発に成功した。次に、【②複数シナプス刺激法の開発】に関しては、パイロット実験によりこれまで使用してきたdFOMA法顕微鏡セットアップのソフトウェアの制御では正確なタイミングで多点を刺激することが困難であることが判明したため、外部電気回路からガルバノミラーの位置を制御できるように改変し、多点を正確なタイミングで刺激する方法原理を確立した。【③単一シナプス体積縮退誘導プロトコールの確立】に関しては、先行知見に基づきグルタミン酸アンケイジングによる低頻度刺激の条件検討を行ったが、現在までのところシナプス体積縮退を引き起こす条件を見出すことはできていない。以上、総じて予定通り計画した研究の実施を行い、特にCa2+依存的酵素の活性化プローブの開発については予想以上の良い結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」で述べた実施計画①~③の3点に関しては、それぞれ当初予定した実験の実施は完了しており、また成果としてはそれぞれ到達度合いが異なっているが、平均するとおおむね順調に進展していると言えると考えられる。特に【①Ca2+依存的酵素の活性化プローブの開発】においては、カルシニューリンの変化率の大きなプローブの作製に成功しており、これは本研究の目的である生化学演算機構の解明のみならず、さまざまな分野に応用が可能な非常に大きな成果であるといえる。また、CaMKIIプローブに関しても、従来よりも明るいプローブに加えて緑色単色のプローブの開発に成功しており、これは他のプローブと組み合わせた多重計測を可能にする新たな原理となるため、生化学的な演算過程を理解する上で非常に重要な成果であると考えられる。【②複数シナプス刺激法の開発】に関しては、計画通りの研究を遂行し、その中で機器間でのタイミングの非同期という当初予期していなかった問題が発生したが、これにたいしては回避する方策を見出すことができた。ただし、現在のところ実験操作が多少煩雑であるため、この方策をプラクティカルに実施可能な形に改変していく必要があり、その課題を残している。【③単一シナプス体積縮退誘導プロトコールの確立】に関しては、計画通りグルタミン酸アンケイジングによる条件検討実験を実施したが、単一シナプスレベルでのシナプス体積縮退を引き起こす条件を見出すことはできておらず、十分な成果を得られていない。少なくとも現在の方法では困難であると結論できたため、今後電気刺激などの条件を検討する必要がある。以上述べたように、実施については非常に順調であり、成果としても予想以上の良い結果を得た部分からまだ十分ではない部分もあり、それらを平均して評価し「おおむね順調に進展している」とした。
当初の計画に基づきながら、特に平成26年度に得られた高性能カルシニューリンプローブの成果を最大限有効活用し研究を発展させていくための今後の具体的な方策を以下に述べる。【カルシニューリンプローブの開発・評価】26年度の結果からさらに変化率のよいカルシニューリンプローブを開発できる可能性を得られたので、続けて改良・開発を行う。具体的には、蛍光タンパク質の挿入位置の調整や、リンカー配列の最適化・円順列変異体蛍光タンパク質の利用によるダイナミックレンジの向上を目指したコンストラクトを作成し、蛍光プレートリーダーにて測定し性能評価を行う。また、プローブの機能性評価としては、in vitro蛍光プレートリーダーを用いたFRET計測にて、阻害剤(W7, FK506)の効果を検討する。さらに、新規蛍光タンパク質を利用して、二重FRET法や単色計測にスペクトルが最適化されたプローブを作製する。【シナプス・樹状突起でのCa2+依存的酵素活性の計測】樹状突起上での生化学的な演算過程を明らかにするため、新規高性能カルシニューリンプローブおよびCaMKIIα/βプローブを用いて、単一シナプスグルタミン酸光融解刺激に対する活性化とその樹状突起における拡がりを測定する。また、二重FRET法を用いて、これらの活性化のタイムコースや樹状突起における拡がりを比較する。また多点刺激系の制御システムの開発・整備および刺激条件検討も進める。【複数酵素間での相互制御の検討】新規高性能カルシニューリンプローブを用いてこれまで神経細胞の中で直接観察することのできなかったCaMKIIとカルシニューリンの相互作用の可能性を検討する。具体的には、カルシニューリンのCaMKIIリン酸化部位変異体(S197A)を導入したプローブを作製し、海馬神経細胞に発現させてその応答が野生型プローブに比べて変化するかを比較検討する。
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Nat Methods
巻: 12 ページ: 64-70
10.1038/nmeth.3185