研究課題
平成27年度は、26年度に引き続き、Ca2+依存的酵素の活性化プローブの開発、神経細胞シナプス刺激に関する研究を行った。【Ca2+依存的酵素の活性化プローブの開発】Ca2+依存的脱リン酸化酵素であるカルシニューリンに関して、26年度に新規に開発した高性能の活性化プローブを元に、蛍光タンパク質の挿入位置やリンカー配列などを調整し、蛍光プレートリーダーでのスクリーニングを行い、さらなる改良を行った。その結果、神経細胞において、より高い変化率を示すインディケーターを開発することに成功した。また、in vitroでプローブ性能の評価をおこなうために、HEK293T細胞を用いたタンパク質発現系を利用して、FRETプローブを精製する系の条件検討を行った。小スケールのパイロット実験において、発現・精製条件の最適化を行い、今後行うプローブ性能の評価のための基盤を構築した。【神経細胞シナプス刺激】単一・複数シナプス刺激を行う際に、入力のあったシナプスをCa2+濃度上昇を指標に同定する目的で、Ca2+インディケーターとCa2+依存的酵素プローブを同時に可視化する手法を開発した。平成26~27年度に開発したカルシニューリン活性化プローブ、もしくはCaMKII活性化プローブを、赤色Ca2+インディケーターであるR-CaMP2と同時にイメージングすることに成功した。また、予備検討において、グルタミン酸光融解法を用いた単一シナプス刺激に対する活性化に対するカルシニューリンおよびCaMKIIの活性化プロファイルの違いを見出している。また、TTX存在下において、シナプスにおける局所的なCa2+濃度上昇とカルシニューリンの活性化を計測することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、カルシニューリン活性化プローブのさらなる高性能化に成功し、このプロ―プの精製標本を調整するためのタンパク質発現系の条件を最適化した。この成果により、本研究の根幹をなすCa2+依存的酵素の活性化を測定するためのプローブのデザインや開発は一段落し、今後はこのプローブを元にした樹状突起・シナプスでの活性測定や開発したプローブの評価をメインに研究を進める段階に入っている。よって、昨年度より一段階進んでおり、非常に順調に研究が進んでいると考えられる。また、この高性能化によって、神経細胞のシナプス・樹状突起においてCa2+依存的酵素群(CaMKIIおよびカルシニューリン)の活性化の可視化に成功した。また、単一シナプス刺激を用いた予備検討では、両者の活性化プロファイルの違いを見出した。これは、本研究の目的である、Ca2+依存的酵素の生化学的演算機構を検証する上で、非常に重要な知見となる。よって、Ca2+依存的酵素の活性化イメージングは非常に順調に進んでいると考えられる。一方で、当初目標にしていたシナプス体積の縮退を誘導する方法の確立にはこれまでのところ至っていないが、本研究の主目的であるシナプス・樹状突起における生化学演算過程の解明という点に照らし合わせると、シナプス体積の増大を誘導するプロトコールでも十分解明可能であると考えられるので、今後は体積増大プロトコール(シナプス構造的長期増強プロトコール)を用いて研究を進めてゆく。
平成28年度は、これまで2年間の成果をもとに、本研究の目的であるシナプス・樹状突起におけるCa2+依存的酵素の生化学演算過程の解明を中心に研究を進める【Ca2+依存的酵素の活性化プローブの開発】平成28年度は、26~27年度から発展させてきた新規高性能カルシニューリン活性化プローブの開発の最終段階として、in vitroでのプローブ性能の評価を中心に進める。具体的には、小スケールで発現・精製条件を最適化したHEK293T細胞でのプローブ精製を大スケール化し、評価に必要なカルシニューリンプローブタンパク質標本を精製・調整する。この精製標本を用いて、蛍光プレートリーダーを用いたFRET測定を行い、カルモジュリンの阻害剤などの薬理学的実験を行い、プローブの評価を行う。また、神経細胞の樹状突起・シナプスにおいてすでに実績のある多重FRET法を用いて2種類のCa2+依存的酵素間での比較を行うために、長波長化・単色化した新規カルシニューリンプローブを作製する。【神経細胞シナプス刺激】平成27年度にCa2+インディケーターとCa2+依存的酵素プローブを同時可視化法を用いて、単一・複数シナプス入力に対する応答を検討する。単一シナプス刺激に置いては、Ca2+、CaMKII、カルシニューリンそれぞれの活性化のタイムコースや空間的広がりのプロファイルを明らかにする。また、多重FRET法(dFOMA法)を用いて、Ca2+依存的酵素間(CaMKIIとカルシニューリン)の同一シナプス・同一刺激に対する活性化プロファイルの直接比較も行う。また、実際の神経細胞において、2つのシナプスに対しての交互刺激法の開発をおこない、これを用いて樹状突起における演算過程を検討する。
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Mol Brain.
巻: 9 ページ: 8
10.1186/s13041-016-0189-3