研究課題/領域番号 |
26830044
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
岩倉 百合子 新潟大学, 脳研究所, 助教 (40452081)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | セロトニン神経 / 縫線核 / FGF / BDNF / GDNF / サリドマイド |
研究実績の概要 |
H26年度はラット菱脳初代培養系を用い、以下の基盤データを得た。 (1)各栄養因子の生存・発達への影響とその差異:予備実験では、BDNF, FGF2, GDNFなどの栄養因子毎に、セロトニン神経の生存や形態的発達に対する作用の違いが見られた。そこで、免疫化学的手法を用いて、細胞の生存や形態的・機能的発達を比較した。FGFファミリー(FGF2・FGF4・FGF8)については、いずれもセロトニン神経の生存・発達に促進作用を示した。 これらの栄養因子は、同じ発生起源であるドーパミン神経に対しても増殖因子として作用する。初代培養細胞では、微量のドーパミン細胞の混入、およびTPH/THの2重陽性細胞がみられる。BDNFやGDNFは、セロトニン細胞の生存/発達促進効果に加え、こういった2重陽性細胞の増加もみられる。しかしながら、FGF2については2重染色性に対する変化はみられなかった。 (2)サリドマイド及びその誘導体による、生存・発達抑制効果の検証 :予備実験では、サリドマイドはセロトニン神経の生存・発達に抑制作用を示した。そこで、サリドマイドとその誘導体(レナリドマイド・ポマリドマイド)処理によるセロトニン神経への発達抑制作用を、免疫化学的手法にて評価した。その結果、レナリドマイドおよびポマリドマイドについては、サリドマイドのような生存・発達抑制効果は見られなかった。サリドマイドの作用機序を明らかにするため、サリドマイドに関連する炎症シグナルの一つであるIκB/NFκBの変化をウェスタンブロット法にて検出した。その結果、サリドマイド添加により、NFκBの低下を認めた。また、bFGF添加群でのNFκBの変化は確認できなかったが、FGF2とサリドマイドの両方を添加した群では、サリドマイド単独使用でみられたNFκBの低下が阻害されたことから、炎症性シグナルの関与の可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度は、研究計画に基づき、培養系を用いた栄養因子およびサリドマイドの発達/生存に対する効果やその違いをを検討できた。そのため、本研究仮説である、分化完了後のセロトニン神経に対して栄養因子が異なる効果をもたらすという仮説の検証はできたと考えている。しかしながら、サリドマイドの標的分子であるセレブロンについては、予備実験等進めているが、十分なデータを取るところまでは到達できていない。また、硫酸化糖鎖との関連性についても、まだ進展がみられていない。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度の研究結果から、BDNF、GDNF, FGF2はそれぞれセロトニン神経細胞の生存や発達にたいして促進作用を持つ。しかし、BDNF, GDNFと異なり、FGF2はおなじモノアミン神経細胞の系譜であるドーパミン神経細胞にはそういった促進作用は示さない。このことから、FGF2は特にセロトニン神経細胞としての性質(発達)を増強する効果が強いと考えられる。このFGF2については、硫酸化糖鎖の発現に対する影響も同様に検出し、栄養因子間、並びに栄養因子と硫酸化糖鎖の相互作用の可能性も合わせて考察したい。また、EGFなど、ドーパミン神経に対する栄養作用がみられる他の栄養因子との比較も行いたい。 サリドマイドが示した生存発達抑制効果に関しては、炎症シグナルの一つであるIκB/NFκBが関与する可能性があるが、セレブロンのようなユビキチン化経路など、それ以外の可能性も考えられる。また、栄養因子の添加で見られたように、セロトニン細胞そのものの性質を減弱するのか、あるいは、同じモノアミン系であるドーパミン細胞的な性質も(選択性なく)減弱させるのかはまだ不明である。そのため、引き続き培養系を用い、ユビキチンープロテアソーム系の関連や、TPH/THの2重陽性細胞がサリドマイドにより影響を受けるかを検討する。そのため、次年度で計画していた遺伝子改変マウスについては、栄養因子の遺伝子改変マウスだけでなく、セレブロンノックアウトマウスでの検証を行い、その関連性を明らかにする。 以上の実験結果をふまえ、余裕があれば、in vivoでのセロトニン神経路における検証実験にも取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬などはキャンペーン価格などを利用し、予定金額より安く購入できたものがあったため
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の研究費からは次年度への繰り越し分が発生しているが、これは、FGF2をはじめとする栄養因子効果の差異やサリドマイドの作用機序を確認する為、主に培養系での実験に引き続き使用する。また生存・発達効果に関しては遺伝子改変マウスを主に検討し、硫酸化糖鎖に関しては、免疫化学的方法や分子生物学的方法を用いてその発現変化の裏付けをとる。 その後、余裕があれば、in vivoでのセロトニン神経路における栄養因子活性についての実験にも取り組みたい。
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