研究課題/領域番号 |
26830047
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤原 一志郎 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (80638495)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ニューロン分化 / RanGAP1 / SUMO / 最終分化 / 核-細胞質間輸送 |
研究実績の概要 |
これまでに、マウス胎仔大脳皮質由来の神経前駆細胞を用いた実験から、RanGTP activating protein であるRanGAP1がニューロン分化において、急激に脱SUMO化され、分解を受けることが分かった。またそのメカニズムとして、脱SUMO化酵素の一つであるSenp2の関与を明らかにした。今年度では、ニューロン分化におけるRanGAP1の発現低下が、核-細胞質間におけるRanGTP-GDPの勾配に与える影響を検討した。その結果ニューロン分化において、核内のRanGTPのレベルが減少することが分かった。さらにRanGAP1の発現減少によって影響を受ける蛋白質をスクリーニングしたところ、DNA複製に関与するCdc6の細胞内局在が、核から細胞質へ移動することが分かった。さらに神経前駆細胞においてRanGAP1をRNAiにより発現抑制すると、Cdc6が核から細胞質へ移動し、細胞増殖が抑制されるだけでなく、ニューロン遺伝子の発現を上昇させることが分かった。このことはRanGAP1が細胞増殖だけでなく、ニューロン分化に必要な蛋白質等の核-細胞質間輸送も制御している可能性を示唆している。RanGAP1の発現減少や、Cdc6の核から細胞質への移動は、血清飢餓の線維芽細胞では起こらない一方、脂肪細胞分化では確認されたため、最終分化における共通のメカニズムであると考えられ、最終分化細胞においてDNA複製が伴わない理由の一つであることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れていると評価した点は、RanGAP1の発現減少に伴う核-細胞質間輸送の変化に影響を受ける内在性蛋白質のスクリーニングに非常に時間がかかったからである。その理由としては、核局在化シグナル(NLS)や核外移行シグナル(NES)を持つ蛋白質のデータベースが存在せず、一つ一つ検討していく必要があったからである。しかし検討の結果、NLS、NESを持つCdc6の細胞内局在がニューロン分化において核から細胞質へ移動することを発見することが出来た。またCdc6の発現パターンが、ニューロン分化や、脂肪細胞分化といった最終分化と、線維芽細胞の血清飢餓におけるG0期とでは全く異なることが分かった。本研究は、最終分化細胞における不可逆的な細胞周期の停止メカニズムを核-細胞質間輸送の観点から検討する初めての研究であり、やや遅れていると評価したが、当初の交付申請書に記載した研究目的を十分に達成していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は分子メカニズムという点においては、ほぼ解析は終了している。そこで今後の研究課題としては、これまでにin vitroニューロン分化系で観察された現象が、個体レベルでも当てはまるかを検討することである。そのためにエレクトロポレーション等を用いた遺伝子導入方法により、マウス胎仔脳にRanGAP1のRNAiや過剰発現を行うことを検討している。また、アルツハイマーやALS等の神経変性疾患では、その原因蛋白質の細胞内局在が変化していることが多数報告されていることから、ニューロンにおける核-細胞質間輸送と神経保護機能についての検討を行いたい。そのために疾患マウスモデル由来のニューロンや、患者iPS細胞由来のニューロンを用いて核-細胞質間輸送のメカニズムについて検討を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、今年度は主にマウス胎仔脳から単離した神経前駆細胞を用いた実験が主であり、マウス個体レベル解析を主とした動物実験等に計画していた額が少なかったためである。 また当初計画していた、国際学会への旅費が今年度に支出されなかったからであると考える。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では、動物を用いた個体レベルの解析や、これまでの成果を論文としてまとめるための論文投稿費用や、国際学会での成果発表に使用することを計画している。
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