昨年度までの研究により、神経細胞においてIP3R1の重要な下流因子として知られるPKCがCaMKIIbをリン酸化すること、またこのリン酸化がCaMKIIbによるアクチン繊維の安定性を制御することを明らかにした。本年度は昨年度の研究推進方策に従い、このリン酸化シグナルがIP3R1によるスパイン形態制御機構にどのように関与しているかを明らかにすることにした。小脳神経細胞の分散培養系及び小脳急性スライスを用いた検討の結果、プルキンエ細胞のCaMKIIbは神経刺激に応じてPKCにより顕著にリン酸化されるが、IP3R1を欠損した細胞ではこのリン酸化反応が起こらないことを明らかにした。さらに、マウス小脳のスライス培養系を用い、プルキンエ細胞に非リン酸化変異型のCaMKIIbを発現させることで、IP3R1を欠損した細胞と同様のスパインの形態異常が起こることが分かった。また、この効果は恒常的リン酸化変異型CaMKIIbを発現させた細胞では観察されなかった。これらのことから、IP3R1が欠損したことにより起こるプルキンエ細胞のスパイン形態異常には、PKCによるCaMKIIb-アクチン繊維の制御機構が消失していることが関与していると思われた。そこでさらに、IP3R1を欠損したプルキンエ細胞に対し、CaMKIIbとアクチン繊維の結合を阻害する薬物を投与したところ、IP3R1欠損によるスパインの形態異常が正常に回復することがわかった。本研究により、プルキンエ細胞ではIP3R1の下流で活性化したPKCがCaMKIIbをリン酸化することで、CaMKIIbによるスパイン内のアクチン繊維の安定性が変化し、これがスパイン形態を正しく制御するのに重要であるという、全く新たな機構を明らかにすることが出来た。
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