日本を含む先進諸国では10組に1組のカップルが不妊に悩んでいるとされる。男性(雄)に見られる不妊原因の1つとして精子運動能の低下(精子無力症)が挙げられるが、その発症機構はまだほとんど分かっていない。その理由として精子鞭毛運動に関わる遺伝子の機能を個体レベルで解析した例が少ないという点が挙げられる。本研究では、CRISPR/Cas9システムを用いて精子運動能に関わる遺伝子の網羅的なノックアウト(KO)マウス作製を行い、精子無力症の原因遺伝子の同定と精子無力症モデルマウスの作製を目指す。平成26年度はダイニンやラジアルスポークを構成する因子を含む13遺伝子のKOマウス作製を行った。このうちの9遺伝子のKO雄マウスを野生型の雌マウスと交配させたところ、5遺伝子のKO雄マウスが不妊、1遺伝子のKO雄マウスが妊孕性の低下を示した。残りの3遺伝子のKO雄マウスの妊孕性に問題はなかった。精子の形態と運動能の解析を行うと、鞭毛形成不全(3遺伝子)と運動能低下(3遺伝子)が原因で不妊または妊孕性の低下となっていることが分かった。また免疫染色や精子を頭部と鞭毛に分画したウェウタンブロッティングを行うことにより、妊孕性に問題のあった4遺伝子が実際に精子鞭毛に局在していることを確認した。今後はこれらKO雄マウスの表現型解析を通じて精子無力症の発症機構を明らかにするとともに、精子運動能に関係する遺伝子のKOマウス作製を引き続き行っていく予定である。
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