平成28年度において、APCminとDectin-1欠損マウスとの交配による小腸ポリープ形成におけるDectin-1の役割の検証に基づいて、更にそれらのマウスにDextran sulfate sodium saltを飲料水投与によって誘導される家族遺伝性大腸腺がんモデルを用いて、Dectin-1の腺がん形成における役割を解析した。その結果、Dectin-1欠損マウスでは大腸腺がんの発症は顕著に抑制されることを見出した。Dectin-1欠損マウスでは、小腸と大腸の腸内細菌の組成がかなり違っていることを腸内細菌ribosomal RNAのシーケンス解析によって明らかとなって、前年度に発見された腸管乳酸桿菌は小腸ではなく、APCmin-Dectin-1欠損マウスの大腸でしか過剰増殖していなかったことが分かった。その乳酸桿菌の増殖は腸管炎症抑制に働く制御性T細胞の分化誘導を促進させるため、Dectin-1シグナルが腸内細菌と腸管炎症の制御を介して大腸腺がんの形成を促進させることを明らかにした。現在、Dectin-1のアンタゴニストの投与による大腸腺がんの治療効果の検証を実施している所である。 一方、結核菌ワクチンBCGの接種によるT細胞応答におけるDectin-1の役割について解析を実施し、その結果、野生型マウスと比べて、Dectin-1欠損マウスでは統計学的に顕著な変化が見られなかった。その対策としては、今まで発表されたことがない全く新しいC型レクチン受容体ファミリーメンバーClecXxの遺伝子欠損マウスを用いて、BCGの接種実験を行い、Th1細胞の誘導はClecXxの欠損マウスでは有意に低下したことを見出した。現在、結核菌細胞表面のその受容体のリガンドを同定している所であり、最終的にそのリガンドと受容体を標的とした新型結核菌ワクチンの開発に繋がる研究を達成すると考えている。
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