研究課題/領域番号 |
26830060
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
松本 圭史 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (60513463)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 2光子顕微鏡 / マーモセット / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
現在までに、マウスを用いた2光子イメージングは既に行われている。しかしマーモセットの体はマウスに比して大きく、また力も強いため、その観察にはマーモセット専用の機器が必要である。また手術実施時に突然死するといった思わぬ脆弱性を示すことがあるなど、マーモセット専用の手術方法を確立する必要がある。そこで本年度、我々は以下①~④の実験技術を確立した。①2光子イメージングは空間解像度μmオーダーでの観察であるため、小さな動きでさえ観察の致命的な妨げとなる。そのため実験対象を強固に固定する必要がある。そこでマーモセット専用の頭部固定器具を開発、作製した。次に、②脳内投与には、出来るだけ脳組織を傷つけないようにするために非常に細いガラス管(先端30μm)を作成し、プレッシャーインジェクターにより注入した。また、脳組織にダメージを与えることなくウイルス液が脳内に十分に広がる、最適な圧力条件を決定した。この条件により目的の部位にバイオセンサーが発現していることを確認できた。③長時間の顕微鏡観察による肉体的負担を軽減するため、個体にとって無理のない姿勢をとることができる観察台を作成した。また、長期間(数週間から数か月)におよぶ神経細胞の活動や形態変化を調べることができる観察窓の作成条件を確立した。上記①~③により麻酔下における2光子イメージングの基盤技術が整った。これらの技術により、マーモセットの神経細胞群の2次元および3次元画像を生きたまま取得することに成功した。一方、神経細胞は麻酔下では覚醒下に比し反応性が低下することが報告されている。従って、神経細胞の活動を調べるためには、覚醒下で2光子イメージングを行うことも必要である。そこで、④覚醒下で観察可能な拘束装置を開発中である。さらに拘束装置への馴化プロトコルを作成し実施することにより、マーモセットを比較的安定的に拘束することを試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は交付申請書に記載した「研究の目的」に対して、おおむね順調に進展することができた。 本年度における、本研究の目的と計画は、マーモセットの神経細胞を、2光子顕微鏡により生きたまま可視化し、それら神経細胞の活動を観察することができる方法や技術を確立することであった。この点において我々は、それら技術を開発することにより、脳内の神経細胞の3次元画像を取得し、神経活動を観察することに成功している。したがって、申請書に記載している本年度の計画とほぼ一致した進展状況であるため、計画の達成度は「おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究事業により、2光子イメージングに必要な基盤技術の確立や機器の開発に成功した。これらの技術を基に平成27年度からは神経細胞活動を観察することにより、霊長類の神経活動の基礎的な知見を蓄積する。その後、既に樹立されているパーキンソン病モデルマーモセットの神経活動を野生型と比較し、疾患発症メカニズムの解明をめざす。パーキンソン病モデルマーモセットは非トランスジェニックモデルであり、MPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)を皮下に投与することにより黒質線条体経路のドーパミン神経の脱落と、ヒトのパーキンソン病の主症状である震戦や無動などの表現型を示すことが知られている。そのため、パーキンソン病治療薬の薬効評価のモデルとして、現在、製薬企業などにも利用されている。一方、ヒトのパーキンソン病の治療では脳深部に刺激電極を埋め込み、装置周囲の神経細胞を刺激するDeep-brain-stimulation (DBS)法が知られているが、その治療効果は黒質線条体経路へ投射する大脳皮質神経への影響によることが最近明らかになった(Gradinaru et.al. 2009 Science)。そのため、パーキンソン病の発症メカニズムの解明に向けて、大脳皮質の神経細胞がどのような変化をしているのかを明らかにすることは非常に重要である。そこで我々はこのモデルマーモセットの大脳皮質神経細胞の動態を2光子イメーイング法を用いることにより調べ、パーキンソン病の発症メカニズムの解明を目指し、かつ治療薬や治療法の開発に役立てたいと考えている。
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