研究課題/領域番号 |
26830061
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
吉村 文 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 実験動物管理室, 流動研究員 (90466483)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エクソソーム / トランスジェニックラット |
研究実績の概要 |
エクソソームは細胞外へと放出される直径40~100nmの小さな膜小胞であり、内部には種々の酵素やタンパク質の他、mRNAやmicroRNAといった核酸分子を含んでいる。この成分は細胞の生育状態・生育環境・細胞が取り込む物質により変化するため、血液から回収されたエクソソームを疾患マーカーとして利用する研究が近年推進されている。さらに、細胞外へと放出されたエクソソームは他の細胞に取り込まれることで遠く離れた細胞まで情報を伝達している可能性が示唆されている。しかし、エクソソームの解析は培養細胞を用いた実験系が中心であり、実際の生体内でのエクソソーム動態については不明な部分が多い。 本研究は、動物個体におけるエクソソームの動態を明らかにするため、エクソソームを可視化させたトランスジェニック(TG)ラットの開発を行うものである。エクソソームマーカーであるCD63に蛍光タンパク質であるGFPを融合させたベクターをラットES細胞に導入し、ライン化したTG ES細胞株を胚盤胞にインジェクションしてキメララットおよびTGラットを作製した。CD63-GFPの発現プロモーターとして、全身性のCAGプロモーターと、主に神経幹細胞などの幹細胞で発現するSox2プロモーターのそれぞれを用い、両者とも現在までにTGラットを得ることができた。さらに、TGラットの血液から回収したエクソソームにおいて、ウェスタンブロットによりCD63-GFPの標識を確認した。現在、上記2系統を活用したエクソソームの動物モデル樹立を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に計画していたトランスジェニック(TG)ラットの作製を完了し、TG個体血液から回収したエクソソームにおいて、ウェスタンブロットにより標識を確認できた。また、脳におけるエクソソームの働きを解析する方法のひとつとして、大脳皮質ニューロンの初代培養や胎児の神経幹細胞からニューロンを分化させる方法を習得した。以上のことから、脳におけるエクソソームの働きを調べる実験系に必要な準備が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
作成したトランスジェニック(TG)ラットにおけるエクソソームの標識を視覚的にも確認するため、標識に利用したヒトCD63を一次抗体とした免疫電顕を行う。この実験結果は、今後、生体内での標識エクソソームを識別する手法にも活用できる。 今年度の方針として、ひとつはTGラット(Sox2;CD63-GFP)を用い、脳脊髄液(CSF)中に分泌されるエクソソームに神経幹細胞由来のエクソソームが含まれているかどうかを調べる。CSFに分泌されるエクソソームの由来を明らかとすることは、今後、神経・精神疾患の診断に有用なマーカーの同定やCSF中に存在するエクソソームの役割を調べるうえで必要と考える。 もうひとつは、セルカルチャーインサートプレートを用いた共培養によるエクソソームの移行実験を行う。中枢神経系が細胞障害を受けたときにどの細胞のエクソソーム分泌が促進・抑制され、どの細胞間でエクソソーム移行が生じるのかを、生体脳の性質を保持する初代培養を使ったスクリーニング系を立ち上げ、プロファイリングを行う。トランスジェニックラットの胎児あるいは新生児の大脳皮質細胞(神経細胞、各種のグリア細胞)をドナー側、WTラット由来の大脳皮質細胞をレシピント側としてそれぞれ共培養し、細胞障害を引き起こすストレスを与えたときのエクソソームの異種細胞間移行をレシピエント側のGFPの蛍光観察とqRT-PCRやGFPタンパク質の定量から解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度において計画していたトランスジェニックラットが作製できたが、まだ樹立したばかりであるため、その系統維持に必要なジェノタイピングやサザンブロットによるコピー数の確認を続ける必要があり、その分の費用を次年度に計上する。
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次年度使用額の使用計画 |
サンプルのジェノタイピングやサザンブロット解析に必要な消耗品と受託解析に使用する。
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