本研究では、新たな細胞間コミュニケーション媒体として注目される小型膜小胞エクソソームを生体内で可視化できる実験動物の作製を目的とする。初年度において、エクソソームマーカーであるCD63とGFPの融合タンパク質(CD63-GFP)を利用したトランスジェニックラットを作製した。CD63にはヒト由来のhuman CD63を用いることで、内在性rat CD63との識別をできるようにした。全身性のCAGプロモーターと、神経幹細胞などの幹細胞で発現するSox2プロモーターのそれぞれを用い、両者ともトランスジェニックラットを得ることができた。さらに、トランスジェニックラットの血清、あるいはその組織を培養した培地上清からエクソソームを回収し、ウェスタンブロットによりCD63-GFPの標識を確認した。 本年度は、回収したエクソソームの細胞内への移行実験を行い、human CD63-GFPによる標識の確認を試みた。CAG/CD63-GFPラットの血清由来エクソソームの実験では、エンドソームマーカーであるLamp1の免疫染色によって、レシピエント細胞のエンドソーム内への取り込みを確認できた。また、Sox2/CD63-GFPラットの胎児由来神経幹細胞の培地上清から単離したエクソソームが、同じ細胞種である神経幹細胞に加えてアストロサイトにも移行することを確認した。脳におけるエクソソームの機能については、近年報告が増えているが、神経幹細胞については殆どない。そのため、本研究で作成したSox2/CD63-GFPラットが、生体内での神経幹細胞を取り巻くニッチの形成にどのような働きを持つのかを明らかにするモデルになると考えている。in vitroでの移行実験およびエンドソームの動態を観察することができたので、今後は生体内でのエクソソームの分泌・移行を確認できる実験系の確立を行う予定である。
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