研究課題/領域番号 |
26830066
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
水谷 アンナ 公益財団法人がん研究会, その他部局等, 研究員 (30615159)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スプライシング制御 / ユビキチンリガーゼ / 明細胞型腎細胞がん |
研究実績の概要 |
今年度は、The Cancer Genome Atlas (TCGA)のオープンリソースのがん患者のがん部と非がん部のRNAシーケンスによる網羅的な発現データの解析を複数種のがんにおいて行い、その結果、スプライシング制御因子であるESRP1の発現が顕著に低下しているものの、ESRP2の発現は保たれている明細胞型腎細胞がん(ccRCC)に着目して、ESRP2に関する詳細な検討を行った。本検討の予備実験から、ESRP1およびESRP2がE3リガーゼArkadiaおよびWWP1と相互作用していることが示唆されるデータを得ていたが、本年度はまず、Arkadiaに着目して検討を行った。TCGAから取得したccRCCの患者データの解析から、ESRP2が機能的に制御されていることが示唆される結果を得た。さらに、生化学的な検討を詳細に進め、ArkadiaがESRP2のどのリジン残基をユビキチン化しているか同定し、さらに、ArkadiaによるESRP2のユビキチン化の結果、ESRP2のスプライシング機能が調節されていることを見出した。Arkadiaは、TGF-betaシグナルに作用するE3リガーゼであるが、ccRCCの細胞株であるOS-RC-2細胞、および腎臓細胞であるHEK293T細胞で、TGF-beta刺激を行うと、ArkaidaおよびESRP2の発現が低下することを見出した。このことから、ArkadiaによるESRP2のスプライシング機能調節はTGF-betaシグナル非依存的であることが示唆された。OS-RC-2細胞でRNAシーケンスを行い、ESRP2とArkadiaの作用を網羅的に調べたところ、ESRP2またはArkadiaのノックダウンにより細胞増殖因子の発現上昇が認められ、ccRCCにおいては、ESRP2およびArkadiaが、がん抑制的に働いていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、ArkadiaとWWP1の2分子について、ESRP1およびESRP2との相互作用が認められたが、今年度は、Arkadiaについてのみ、詳細な検討を行った。The Cancer Genome Atlasからのデータ解析により、明細胞型腎細胞がんに絞っての検討となった。ArkadiaとWWP1による、スプライシング制御因子ESRP1およびESRP2の制御の可能性については、当初の計画では、さまざまながん種で検討を幅広く行う予定だった。しかしながら、今年度は、明細胞型腎細胞がんについて、ArkadiaによるESRP2の機能制御に関してのみの検討となった。当初の計画より、フォーカスは絞られたものの、TCGAのccRCCの患者データの解析から、ArkadiaによるESRP2のスプライシング機能調節を示唆するデータが得られ、また、生化学的、分子生物学的な詳細なArkadiaによるESRP2の制御機構を明らかにすることができ、さらにccRCCの細胞株を使ったRNAシーケンスによる網羅的な解析が進み、ESRP2およびArkadiaが、がん抑制的に働いていることが明らかとなった。E3リガーゼArkadiaによるスプライシング制御因子ESRP2の制御については、これまでに報告がなく、本検討により、明らかになった。また、ESRP2が細胞増殖抑制に関わるという新たな作用点についても本検討から明らかとなった。今年度検討分である、明細胞型腎細胞がんにおけるArkadiaによるESRP2の制御機構の検討に関して、論文にまとめ、現在、投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
明細胞型腎細胞がんにおけるE3リガーゼArkadiaによるスプライシング制御因子ESRP2の機能制御に関する検討については、すでに結果をまとめ、投稿中である。本検討に関しては、要求された追加実験があれば、さらなる検討を行う。 ほかのがん種についても、明細胞型腎細胞がんと同様に、ArkadiaによるESRP2のスプライシング能の修飾が見られるか検討を行う。具体的には、まず、The Cancer Genome Atlasから患者クリニカルデータ、および患者検体のRNAシーケンスデータを取得し、解析を行う。また計画当初、すでに見出していた、E3リガーゼWWP1とESRP1およびESRP2との過剰発現での相互作用について、Arkadiaのようにスプライシング機能面での修飾があるのかについて、分子レベルで詳細に検討する。WWP1によるESRP1およびESRP2のスプライシング能の制御があるならば、すでに見出しているArkadiaによるESRP2のスプライシング能の制御との関わりについても検討を行う。つまり、ArkadiaによるESRP2の制御とWWP1によるESRP2の制御は互いに独立したものであるのか、依存したものであるのか、拮抗するものであるのか、について検討を行う。検討に使用する細胞株は、TCGAのデータ解析の結果を踏まえ、選定を行う。検討が順調に進めば、マウスを使った移植実験を行い、in vivoでの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、異動があり、所属機関を変更したため、本研究の検討が生化学的、分子生物学的に順調に進んだものの、これまでの結果で、論文にまとめ、いったん投稿することになり、in vivoでの検討やほかのがん種での検討等、次年度に回した課題があったため。また、検討が進んでいることから、次年度に海外の学会での研究結果の発表も決定していることから、次年度分使用額とした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、検討が順調に進んでいることから、今年度は、海外の学会での研究成果発表に加え、論文の出版料が支出として見込まれる。また前年度検討できなかったin vivoでの検討を行うために、マウスの購入や飼育代に使用予定である。
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