研究課題/領域番号 |
26830068
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
砂河 孝行 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (40418637)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | WNT / マクロファージ / 炎症 |
研究実績の概要 |
癌の発症・進展には炎症細胞や血管細胞、線維芽細胞などにより形成される腫瘍間質が重要な役割を果たしている。これら腫瘍間質構成細胞は癌細胞によって積極的に構築され、癌の進展を促進させることが知られており、新たな治療標的として注目されている。我々は、これまで包括的かつ定量的に評価することの難しかった複数細胞により構成される腫瘍組織内の細胞間相互作用を解析する手法を開発している(がん―間質インタラクトーム)。この手法を用いて、がん-間質間相互作用データの蓄積を目的として、膵臓癌細胞株を用いたXenograftモデルを作成し、データの蓄積を行うとともに得られたデータを用いて新たな相互作用の探索を行った。その結果、癌細胞から間質へのシグナル経路としてWNTシグナル経路を同定した。間質細胞におけるWNTシグナルは、線維芽細胞のTGFbによる活性化を促進することが知られているが腫瘍免疫における意義については良くわかっていなかった。そこで、炎症におけるその意義を検討する為にマクロファージ様細胞株であるRAW264.7細胞を用いin vitroにおける検討を行った。その結果、WNTシグナル経路の活性化はLPSによるマクロファージの炎症応答を抑制することが明らかとなった。さらにその抑制メカニズムは、炎症応答における中心的な転写因子NF-κBの核移行の抑制を介していることを見出した。現在、がん細胞由来WNTシグナルによる免疫細胞活性化制御機構が、癌組織における免疫寛容を誘導しているとの仮説を構築し解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
膵癌細胞株ゼノグラフトモデルを用いた癌-間質相互作用の網羅的解析法を用いることで新たな癌から間質への相互作用としてWNTシグナルを同定することができた。間質におけるWNTシグナルの役割を明らかにする目的で炎症のエフェクター細胞であるマクロファージの細胞株RAW264.7細胞を用いて検討を行ったところLPSによる炎症応答を抑制することが明らかとなった。また、膵癌細胞株以外に胃癌細胞株のゼノグラフトモデルのデータ取得も順調に進んでおり、胃癌においても新たな相互作用候補を同定することが可能と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に得られたマクロファージ様細胞株RAW264.7で得られた結果についてマウスの腹腔より得られる腹腔マクロファージを用いて検証を行う。検証により同様の結果が得られた際には、その分子メカニズムを明らかにする為にCanonical WNTシグナルの下流において重要なbeta-Cateninによる転写制御の関与についてその阻害剤を用いて検討を行う予定である。また、WNTシグナル活性化によるLPS下流でのNFKb活性化抑制がどのようにして引き起こされているのかその作用点を明らかにするためにLPSの受容体であるTLR4シグナル経路の各構成因子の活性化状態などに着目し、検証を行う。 また、がん-間質間相互作用データの収集については、胃がん細胞株などのゼノグラフトモデルについて収集を続けることと並行して、新たな相互作用の探索も行う。 さらに、VEGF⇒FLT1シグナル経路の腫瘍随伴線維芽細胞における意義については、その分子メカニズムを明らかにする為にVEGFAをTGFbetaによる線維芽細胞活性化系に添加することでその作用の検討とVEGFAにより制御される標的遺伝子の同定を行うことで腫瘍随伴線維芽細胞の腫瘍間質における機能とその分子メカニズムの解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入した試薬が当初の予定より安く購入できたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
前年度の予定通り分子生物学用試薬及び細胞培養用試薬の購入に合わせて使用する予定である。
|