炎症細胞や血管細胞、線維芽細胞などにより形成される腫瘍間質はがん細胞によって積極的に構築され、腫瘍の増殖や進展にとって重要な役割を果たしていることが知られている。本研究ではこれら複数細胞により形成される腫瘍組織における癌と間質間の相互作用を我々が開発した包括的かつ定量的に解析する手法(がん―間質インタラクトーム)を用いて解析することで新たな治療標的候補の探索を行った。その結果、膵がんのゼノグラフトモデルにおいて新規の癌細胞から間質へのシグナル経路としてWNTシグナル経路(WNT7BおよびWNT10A)を同定した。これまで間質細胞におけるWNTシグナル経路は繊維芽細胞の活性化や組織線維化において重要な役割を担っていることが示唆されていた。しかしながら、腫瘍免疫におけるWNTシグナルの意義について不明であった。そこで、マクロファージ炎症応答におけるWNTシグナルの役割を検討したところWNTシグナルの活性化はLPS刺激によるマクロファージの炎症性活性化を抑制することが明らかとなった。さらに、その分子機構を探索するためにWNTシグナル下流の転写因子であるb-Cateninの転写活性の関与についてその阻害剤を用いて検討を行ったところb-Cateninの転写活性とは関係なく炎症応答抑制があることが見出された。一方、炎症応答における中心的転写因子であるNFkbの活性化について検討を行ったところ、LPS刺激に伴うNFkbの核移行がWNT経路の活性化によって抑制されることも明らかとなった。
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