研究課題/領域番号 |
26830071
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
梶原 健太郎 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (30581102)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Src / 脂質ラフト / 上皮細胞 |
研究実績の概要 |
がん原遺伝子産物Srcは様々ながん組織でその発現の亢進と活性化が認められ、がん化・がんの悪性化に重要なタンパク質のひとつである。しかしSrcの活性制御機構の全貌はわかっていない。本研究では、Srcの活性制御機構を空間的、時間的に理解すること、さらにがん化との関連を明らかにすることを目的としている。 前年度までに、Src活性化誘導システムを導入したMDCK細胞の解析から、活性化Srcの脂質ラフト移行を制御するタンパク質Rsp1(raft-localized Src recruiting protein1)を新たに同定した。そこで、Rsp1-GFP発現誘導システムを構築して、MDCK細胞の三次元培養した。その結果、GFP陽性細胞が基底膜を破壊し、細胞外マトリックス中に異常伸張している様子が観察された。よって、Rsp1の発現によって活性化Srcが脂質ラフトに集積すると、がんの浸潤様の細胞伸張が誘導されると考えられた。 平成27年度は、Rsp1による細胞伸長の分子メカニズムを理解することを目的として、阻害剤ライブラリーを利用した網羅的解析を実施した。その結果、Rsp1-Srcの下流のシグナル伝達経路を明らかにすることができた。さらに、細胞伸長には弱い上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)が重要であることをつきとめた。また、Rsp1はトリプルネガティブ乳がん細胞で高発現しており、乳がん患者の予後不良と関連があることを明らかにした。Rsp1の生理的機能の理解を目的として、ノックアウトマウスを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 細胞伸長メカニズムの理解:Rsp1-GFP発現による細胞伸長メカニズムの全体像をとらえることができた。阻害剤ライブラリー(新学術領域がん支援からのサポート)を利用し、Rsp1-Srcの下流のシグナル伝達経路、とくに細胞伸長に重要な転写因子を同定することができた。さらに、伸長現象には弱いEMTが重要であることをつきとめた。 2) がん細胞におけるRsp1の機能解析:Rsp1はトリプルネガティブ乳がん細胞で高発現していることを明らかにした。また大規模がんゲノム情報(TCGA)の解析から、Rsp1高発現のトリプルネガティブ乳がん患者は対照群と比較して予後不良であることを確認した。 3) Rsp1ノックアウトマウスの作製:Rsp1の生体における機能を解析するためにRsp1遺伝子のノックアウトマウスを作製した。現時点では、Rsp1ホモノックアウトマウスに致死性の異常は認められていない。
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今後の研究の推進方策 |
1) 細胞伸長メカニズムの理解:Rsp1-GFP発現による細胞伸長の詳細なメカニズムを生化学的に解析する。具体的には、Rsp1-Srcから転写因子へのシグナル伝達経路を明らかにする。 2) がん細胞におけるRsp1の機能解析:トリプルネガティブ乳がん細胞におけるRsp1高発現の意義を解析する。具体的には、Rsp1の発現レベルと、Src活性化レベルの相関関係とがん化への寄与を解析する。さらに、上記(1)から得られるRsp1関連タンパク質の関与も解析する。 3) Rsp1の生理的機能の解析:Rsp1ノックアウトマウスには致死性の異常は認められておらず、また発育後も顕著な異常は認められていない。それらの結果から、Rsp1遺伝子の単独変異では異常が顕在化しにくいことが考えられる。そこで、Rsp1-Srcシグナル経路やその周辺の経路に異常のある変異マウス(疾患マウス)と交配させ、Rsp1の生理的機能を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の使用見込み額と執行額は異なった。しかし、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初の予定通りの計画を進めていく。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、前年度までに構築した解析系での解析が中心となるため、消耗品費にウェイトをおく。研究遂行に必要な装置設備は購入しない。
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