研究課題
がん原遺伝子産物Srcは様々ながん組織でその発現の亢進と活性化が認められ、がん化・がんの悪性化に重要なタンパク質のひとつである。しかしSrcの活性制御機構の全貌はわかっていない。本研究では、Srcの活性制御機構を空間的、時間的に理解すること、さらにがん化との関連を明らかにすることを目的としている。Src活性化誘導システムを導入したMDCK細胞の解析から、活性化Srcの脂質ラフト移行を制御するタンパク質Rsp1(raft-localized Src recruiting protein1)を新たに同定した。Rsp1発現誘導システムを導入したMDCK細胞の三次元培養したところ、Rsp1の発現によって上皮管腔形成が誘導された。またRsp1遺伝子ノックアウトによってHGF刺激による上皮管腔形成が抑制された。これらの結果から、Rsp1は活性化Srcの時空間的制御を介して上皮管腔形成に関与するタンパク質であると考えられた。さらにRsp1を長期間過剰発現させると、MDCK細胞は浸潤様の異常伸長を示した。この形態変化にはSTAT3の活性化が必要であり、上皮間葉転換が重要なイベントであることをつきとめた。また、Rsp1はトリプルネガティブ乳がん細胞で高発現しており、そのノックダウンで浸潤が抑制されることを明らかにした。これらの結果から、Rsp1の過剰発現はがんの浸潤にも重要であると考えられた。以上の結果を総括すると、Rsp1は活性化Srcの時空間的制御を担っており、通常は上皮管腔形成を制御しているが、そのシステムが異常になると浸潤になると考えられる。実際にRsp1の発現レベルは乳がん患者の予後不良と相関があることを明らかにしており、さらなる解析が重要である。
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Oncogenesis
巻: 5 ページ: e258
10.1038/oncsis.2016.59