研究課題
がんが転移能を獲得することは、がんを悪性化し治癒を妨げている原因である。がんが転移能を獲得するときには、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)の変化を遂げる必要があり、EMTの分子機序を明らかにすることは、がんを克服するための第一歩である。そこで、本申請課題では、EMTが起こっている時の代謝プロファイルを調べることで、EMTの分子機序を明らかにすることを目的とした。本年度は、EMT研究を始めるに当たりEMT誘導条件の検討を行った。適切な濃度のTNF-aとTGF-bを用いて乳がん細胞を培養すると、E-カドへリンの発現減少とN-カドへリンの発現増加が認められEMTを誘導することができた。EMT誘導した細胞から水溶性代謝物を抽出してガスクロマトグラフィー-質量分析計(GC-MS)を用いて、水溶性代謝物を分析した結果、EMTを誘導時に解糖系の代謝物に変化が認められた。解糖系周辺の代謝酵素の発現パターンを調べたところ、解糖系の重要な酵素の翻訳後修飾に差があることがわかった。この翻訳後修飾は酵素活性に影響を与えることが知られており、EMTによって酵素活性が変化し代謝物のプロファイルが変化していることが示唆された。ある瞬間の代謝を理解するメタボローム解析に加え、動的な代謝を理解するためのフラックス解析のための測定システムを構築した。具体的には、安定同位体でラベルされたグルコースを培地に添加し、代謝物にどのくらい安定同位体が取り込まれたをGC-MSを用いて測定するシステムを構築した。さらに、タンパク質(代謝酵素)の発現量の違いを網羅的に分析できる解析システムの構築も開始した。このように動的な代謝とその代謝酵素の違いを解析することは、EMTの新規分子機序を明らかにすることになり本研究の重要性は極めて高い。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、上皮間葉転換(EMT)を効率的に誘導できる条件を決定することができた。EMT誘導前後での代謝物の変化を網羅的に調べた結果、解糖系に変化が認められる知見を得ることができた。代謝物だけではなくEMT時に変化が認められた代謝酵素の活性も変化していることを見出すことができ、当初の予定通りの研究目的が達成できた。さらに、平成27年度に実施予定のフラックス解析やタンパク質変動を分析することが可能な測定システムの構築も実施することができたので、研究計画をスムーズに遂行できる環境を整えることができた。
平成26年度に引き続きオミックス解析を行う。平成27年度は、ある瞬間の代謝を理解するメタボローム解析に加え、動的な代謝を理解するためのフラックス解析も併せて実施する。具体的には、安定同位体でラベルされたグルコースやグルタミンを培地に添加し、グルコースやグルタミン代謝経路の代謝物にどのくらい安定同位体が取り込まれたを調べることで、代謝経路の流れを観察することができる。EMT誘導時で特徴的な代謝経路の流れが現れるかを調べる。現在、安定同位体ラベルされた代謝物を測定するシステムの構築を行っており、おおむね良好な結果を得ることができている。
当初の予定通りに研究成果をあげることができたが、成果発表までに至らなかった。そのため平成26年度使用予定としていた旅費を平成27年度に繰り越すことになったために次年度使用額が生じた。
次年度の研究費使用計画は、本年度同様に実験に必要な試薬ならびに消耗品購入に予算を適切に使用する予定である。また、研究成果発表や情報収集のための旅費などに使用する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J. Clin. Invest.
巻: 125 ページ: 1591-1602
10.1172/JCI78239