研究課題
本研究課題では、NAD+代謝異常による細胞老化/発がんへの影響を明らかすることを研究目標としていた。細胞老化に関して、NAD+再利用経路の律速酵素であるNampt遺伝子を高発現するトランスジェニックマウス胎仔由来初代繊維芽(Tg-MEF)細胞は、細胞老化の開始が遅延すること、遅延の程度がNAMPT/NAD+増加量に依存的であることを明らかした。最終年度は、薬理学的に細胞内NAD+を上昇させることで細胞老化遅延が惹起されるかを検証した。しかし、NAD+の前駆体であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を添加したWt-MEF細胞で細胞老化遅延は観察されなかった。HPLCにてNAD+関連代謝産物量を測定した結果、NMN添加Wt-MEF細胞でNAD+量はTg-MEF細胞と同程度まで上昇しており、また、ニコチンアミド(NAM)をはじめ他の代謝産物に変化は見られなかった。一方Tg-MEF細胞は、NAD+上昇に加えてNAMが有意に減少していた。これらの結果は、NAD+の上昇だけではなく、NAD+/NAMバランスが細胞老化遅延に関わっていることを示唆している。発がんに関しては、不死化細胞を用いて足場非依存性増殖を指標に検証を行った。Tg-MEF細胞はWt-MEF細胞と同様に足場非依存的なコロニー形成は示さなかった。足場非依存性増殖を促進することが知られている活性型Rasやc-mycを細胞に強制発現させたところ、Wt-MEF細胞は多くのコロニーを形成し、細胞のがん化が確認できた。しかし、Tg-MEF細胞は、コロニー形成は観察できたが、それぞれのコロニーは小さく、コロニー数もWt-MEF細胞に比べ少なかった。これらの結果は、細胞内NAD+量が細胞のがん化に対して負に作用している可能性を示唆している。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
PLoS Biology
巻: 13 ページ: e1002293
10.1371/journal.pbio.1002293
Cell Reports
巻: 12 ページ: 1887-1901
10.1016/j.celrep.2015.08.028