非小細胞肺癌は本邦で死亡率上位を占め、未だ克服できない疾患の一つである。進展型の非小細胞肺癌患者でEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子を持たない肺がん患者に対しては、殺細胞性抗癌剤が治療の中心にあるが、その効果は限定的であり約半分は治療効果が得られないのが現状である。今回我々は、がん細胞が殺細胞性抗癌剤に耐性を示す機序の一つであるDNA損傷修復に着目し、がん細胞のDNA損傷の腫瘍蛋白の一つであるDNA-PKcsのリン酸化を阻害することで、非小細胞肺癌細胞に対するトポイソメラーゼ阻害剤の抗腫瘍効果を増強させるが微小管重合阻害剤の抗腫瘍効果ことを発見した。その機序として非小細胞肺癌細胞(A549)において微小管重合阻害薬はDNA-PKcsのリン酸化は誘導しなかったが、トポイソメラーゼ阻害剤はDNA-PKcsのリン酸化を誘導し、DNA-PKcs阻害剤であるNU7441はそのリン酸化を阻害しアポトーシスを誘導し、DNA二本鎖損傷も有意差をもって増加させることを証明した。現在、本邦において非小細胞肺癌に使用できる抗癌剤は複数あるが、中でもトポイソメラーゼ阻害剤とDNA-PKcs阻害剤の併用は期待できる治療選択肢となり得ることが示唆された。抗がん剤による二本鎖損傷とEGFR核内移行については、野生型EGFRを持った非小細胞肺癌(A549)はシスプラチンとトポイソメラーゼ阻害薬によって核内へ移行することが免疫染色にて示されたが、変異型EGFRを持った非小細胞肺癌細胞(PC9)では、EGFRは核内に移行しなかった。我々は、放射線照射によってWT-EGFRは核内に移行しDNA-PKcsと結合することでDNA損傷修復を惹起することをかつて示したが、DNA損傷を引き起こす抗癌剤によってもEGFRの核内移行を誘導する事、変異型EGFR変異を持った肺癌細胞ではそれが引き起こされない事から、殺細胞性の抗癌剤の治療抵抗性においてEGFR核内移行とDNA-PKcsは新たな治療ターゲットになり得ることが示された。
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