研究課題/領域番号 |
26830079
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小林 大樹 熊本大学, 生命科学研究部, 研究員 (20448517)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経線維腫症1型 / TCTP |
研究実績の概要 |
神経線維腫症1型(NF1)は神経線維種や悪性腫瘍をはじめとする、多彩な病態を示す遺伝性疾患である。その原因遺伝子産物Neurofibrominは、Ras-GAP相同領域を有し、その欠損によるRasを介した細胞内シグナル伝達異常は、神経系細胞増殖と分化異常による悪性化を誘発すると考えられるが、その詳細な分子機序や病態マーカー/治療標的は報告されていない。NF1病態発現機構解明を目的として、NF1発現抑制によるNF1病態モデル細胞を構築し、細胞内異常発現分子群を融合プロテオミクスにより網羅的に解析した結果、TCTPを中心とした新規NF1病態関連分子ネットワークがNF1腫瘍の発症・進行に関与すると考えられた。そこで、TCTPを中心としたネットワークに注目し、その詳細な機能について検証した。TCTPのNF1腫瘍における細胞内相互作用機能を詳細に検討するため、プロテオミクス手法によるTCTPを結合する蛋白質分子群の網羅的な同定を試みた。TCTP-をFlagタグと融合させた形で発現ベクターを用いてMPNST細胞内に強制発現させ、Flag抗体を用いた共免疫沈降により、TCTP複合体複合体を精製し、超微量還元アルキル化・およびTrypsin/LysCによる消化処理の後、nanoLC-ESI-MS/MS解析(SWATH)によりTCTP複合体分子群蛋白質の網羅的解析同定を行った。その結果、TCTPをコアとしたTCTP結合蛋白質群には翻訳伸長因子複合体を含む翻訳関連因子群、およびストレス応答因子群が再現性高く有意に含まれていることが明らかとなった。以上の結果より、TCTPは蛋白質合成能とストレス応答反応の促進によって、NF1腫瘍形成、および悪性化に密接に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NF1腫瘍細胞内において、TCTPと結合する蛋白質を網羅的に同定する手法を確立し、TCTPは蛋白質の翻訳とストレス応答反応によって、NF1腫瘍形成に関与していることを明らかにしてきた。それら研究結果を国内外の学会ですでに発表しており、現在、論文投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
1. 各結合蛋白質とTCTPの細胞内結合活性・相互作用部位を解析する。NF1腫瘍形成に重要であると予想された機能分子群の、TCTPとの結合様式の生化学的に解析する。各種抗体を用いた免疫沈降法により、NF1腫瘍細内でそれぞれの結合蛋白質と抗TCTPの両者が、お互いに共沈してくることを確認すし、お互いの結合のカイネティックスを解析することにより細胞内における両者の結合強度、および様々な成長因子や刺激因子を導入したときの細胞内での結合活性の変化を測定する。また、TCTPの各種mutantを作成し、TCTP分子上の各結合蛋白質結合部位を決定する。同時に、結合蛋白分子の各種mutantを作成し、それぞれのTCTP蛋白の結合部位を決定する。 2. NF1腫瘍特異的なTCTP機能と病態に関連した細胞機能変化を解析する。NF1腫瘍細胞におけるTCTP複合体の細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡およびタイムラプス顕微鏡にて解析する。また、TCTP複合体の機能を抑制、または増大させる方法を薬剤、siRNA、発現ベクター等で確立し、細胞周期、形態、運動能等の非腫瘍性・腫瘍性細胞に対する機能変化を生化学的、細胞生物学的に検証する。 3.NF1欠損腫瘍細胞内におけるTCTP機能阻害が細胞増殖・形態・運動能・腫瘍形成などに及ぼす効果を検する。NF1特異的なTCTP機能、およびTCTP結合蛋白質群のNF1治療標的として有用性を評価するため、NF1腫瘍組織由来培養細胞および神経線維腫モデルマウスの腫瘍内でその分子機能を阻害し、細胞増殖・形態・運動能・腫瘍形成などに及ぼす効果を検討する。また、TCTPと特異的に会合するNF1病態関連分子群について、結合様式などからその機能阻害方法を検討し、各種細胞に対する効果を評価する。これらの結果を組み合わせて、最適なNF1治療方法および治療標的分子を検討する。
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