研究実績の概要 |
癌幹細胞は非癌幹細胞と異なり、高い腫瘍形成能と抗癌剤耐性という特性をもつことから、従来の癌治療法では排除するのが難しい。癌幹細胞を標的とした治療法を確立する為には、癌幹細胞の発生に関わる細胞内分子機構を明らかにする必要がある。これまでに私はリン酸化酵素DYRK2の欠失によって癌幹細胞の割合が増加するという知見を得ている。しかし、その分子機構は不明である。そこで、本研究ではDYRK2の欠失によって癌幹細胞が発生する分子機構を明らかにすることを目標とした。 DYRK2のノックダウンによって発現が変動する遺伝子を探索する為に、乳癌細胞MCF-7にDYRK2をノックダウンした細胞(DYRK2 shRNA)とノックダウンしていないMCF7細胞を用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果、変動のあった候補遺伝子のうち、KLF4遺伝子の発現がDYRK2 shRNA細胞で上昇していることが明らかとなった。これまでに正常乳腺細胞にiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立に必須である山中因子(KLF4, Oct3/4, c-Myc)を導入すると、乳癌幹細胞が発生することが報告されている。そこで、DYRK2のノックダウンした細胞で乳癌幹細胞の割合が増加する起因がKLF4の発現上昇によるものかを明らかにする為に、DYRK2 shRNA細胞にKLF4をノックダウンした細胞(DYRK2 shRNA/ KLF4 shRNA)を作製し解析を行った。その結果、乳癌幹細胞の表現マーカーであるCD24 陽性/CD陰性の細胞群は、DYRK2 shRNA細胞で増加するにも関わらず、DYRK2 shRNA/ KLF4 shRNA細胞では乳癌幹細胞の割合が低下することが明らかとなった。以上の結果より、DYRK2の欠失細胞ではKLF4の発現が上昇することによって乳癌幹細胞の特性が維持されていることが明らかとなった。
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