研究課題/領域番号 |
26830088
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大串 雅俊 独立行政法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 上級研究員 (00462664)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多能性幹細胞 / ゲノム不安定性 |
研究実績の概要 |
通常のヒト正常細胞は46本の染色体を持ち、細胞周期の決まった時期に正しく複製、分配されることにより、その数は厳密に維持される。このような厳密性を喪失し、細胞分裂の度に染色体数が変動する状態を染色体不安定性と呼び、細胞のガン化や悪性化、ダウン症候群など先天性疾患の要因となることがある。ヒト多能性幹細胞は、低い頻度ながら、長期培養により染色体異数性を呈する場合があることが知られており、奇形腫を含めた腫瘍化の発生リスクを増悪させることが報告されている。本課題では、低分子量GTPase制御因子AbrがヒトES細胞分裂時の正確な染色体分配に必要な因子であるという知見を足掛りとして、ヒト多能性幹細胞の培養における染色体安定性維持の分子機構を明らかにすることを目的としている。 本年度は、ヒトES細胞におけるAbrのM期特異的機能の同定・解析を目指した実験材料の調製や実験システムのセットアップを実施した。これまでに、細胞分裂をリアルタイムに観察するライブイメージング解析へ向けた実験材料の調製はほぼ完了し、これまでに、蛍光標識H2B(核)、α-tubulin(紡錘体)、centrin(中心体)、Lifeact(アクチン骨格)をそれぞれの組み合わせで発現するトランスジェニック細胞を調製した。また、顕微鏡システムのセットアップ及び実験条件の微調整を試みてきた。最終的に確定したプロトコールに基づきmVenus-H2B/mCherry-α-tubulinを発現するヒトES細胞の経時観察を行ったところ、一つの細胞において48時間にわたり安定な細胞分裂を伴う増殖が観察することができた。今後は調製した種々のトランスジェニック細胞を用い、Abrノックダウン後の細胞分裂の経過観察を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イメージング解析のための細胞調製、顕微鏡システムのセットアップ、実験プロトコール確立などは予定通り進んでおり、薬剤誘導型遺伝子操作法との組み合わせも順調に動き始めている。一方で、当初の計画では、ヒトAbrを認識できる免疫染色可能な抗Abr抗体を新たに作製し、間期及びM期の各素過程(前期、前中期、中期、後期、終期、細胞分裂期)における細胞内局在を明らかにすることを目標にしていたが、現時点では抗体作製作業に至っていない。また、Abr発現の細胞周期依存性を検討する前準備として細胞周期同調実験を試みたが、ヒト多能性幹細胞の種々の同調試薬に対する感受性のコントロールが難しく、分化や細胞死を起こしてしまった。これらのことから、現時点ではAbrの局在や細胞周期との関連に関しては結果を得るに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度調製できた種々のトランスジェニック細胞に、薬剤誘導型shRNA発現カセットを導入し、Abr発現抑制による染色体数異常細胞の出現をリアルタイムに観察し、正常ヒトES細胞が異常に転じる瞬間を捉えることを試みる。異常が生じる素過程を同定した上で、その過程に関与する候補分子について、機能阻害実験や局在変化などの詳細な検討を進めたい。また、内在性Abrを適切に認識し得る抗体作成にかえて、今後はゲノム編集技術を用いて蛍光分子を内在性Abrに融合させる事ができないかを試みたい。また、薬剤処理による同調実験にかえて、細胞周期インジケーター(FUCCIシステム)を発現するヒトES細胞を調製し、非侵襲的アプローチにより細胞周期とAbr制御の関連について検討を進めたい。内在性Abrの蛍光標識及びFUCCIシステムの導入がうまく行けば、Rho-Abrシグナル経路を中心とした染色体安定性維持システム発動と細胞周期進行を、平行したイベントとしてリアルタイムに観察・解析する事が可能となると期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度は、主に実験材料の作成(遺伝子クローニングや遺伝子導入株の樹立)を主な作業としており、この過程においては培養ディッシュや基本培地、PCR酵素などの購入以外にはあまり費用がかからなかった。。また、当該年度の半ばから後半にかけては、研究代表者が所属する機関(理化学研究所発生再生総合科学研究センター)の組織改編、および所属部局(幹細胞研究支援・開発室)の統廃合を受け、当該年度に予定していた作業の一部(抗体作成や結合分子スクリーニングなど)を見送ったことも一つの要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画に基づき、Rho-Abrシグナル伝達経路の機能解析を中心としたヒト多能性幹細胞の培養における染色体安定性維持の分子機構の機能解析を進める。それに加え、近年発展が著しいゲノム編集技術の積極的導入するために必要な試薬(発現プラスミドや解析キットなど)の購入や、それに伴うゲノム解析(次世代シークシークエンサーの利用など)のための費用として、前年度繰り越し分を充てる予定である。
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