研究課題
本邦において肥満、糖尿病、高血圧など生活習慣病に伴う脂肪性肝障害(NASH/NAFLD)が近年増加傾向にある。また、肝癌全体に占めるNASH/NAFLDを背景とした肝癌の割合も増加している。この病態では肝組織内に脂肪とともに鉄が蓄積する。この鉄の細胞内蓄積は、NASH/NAFLDの増悪、肝癌の進展に直接・間接的に様々な影響を与えていると考えられる。この要因としては、鉄過剰によるフリーラジカルの発生が遺伝子変異を誘導し、発癌に影響を与えていると考えられてきた。しかしながら、鉄はヘモグロビン鉄としての酸素運搬作用、エネルギー代謝における酵素反応、遺伝子発現調節など生体内において多彩な役割を担っており、発癌への関与はこれらの影響を包括的に考慮する必要がある。本研究ではNASH/NAFLDから肝癌へ進展する過程で、負荷された鉄が糖・脂質代謝関連分子にどのような影響を与えるかという点に着目し、そのキー分子を網羅的に探索することを目的とした。平成26年度は、鉄沈着を伴うNASH患者から得た生検材料からRNAを抽出し網羅的遺伝子発現解析を行った。また、次年度に行う予定のマウス鉄過剰モデルにおける肝組織の網羅的遺伝子発現解析も予備実験として行った。その結果、ヒトNASH肝組織とマウス鉄過剰肝組織においてコレステロール合成関連酵素、蛋白質プレニル化酵素、脂肪酸β酸化酵素、糖代謝関連酵素の発現変化が顕著に認められた。この中でコレステロール合成関連酵素、蛋白質プレニル化酵素は発癌関連シグナル伝達において重要な役割を果たすRas、Rac、Rabなどの低分子G蛋白質の活性調節も担っていることから、鉄がこれらの代謝関連酵素の発現調節を行うことで発癌を促進することが示唆された。これらの実験結果を2014年11月にボストンで開催された米国肝臓学会学術集会において発表した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、主にヒトNASH患者から得た生検材料からRNAを抽出し網羅的遺伝子発現解析ことであった。当初、10例ほどのサンプルを予定していたが、研究目的に合致する患者数が少なく解析が出来たサンプルは3例のみであった。しかしながら、網羅的遺伝子発現解析では充分にキー分子を同定することができた。また、次年度に行う予定であったマウス個体を用いた解析の予備実験を行った段階で、NASH患者で顕著に見られた遺伝子発現変動と共通するものが観察されて、次年度に詳細に解析を行うキー分子の絞り込みができた。従って、研究計画は概ね順調に進展していると判断した。
平成27年度はマウス鉄過剰モデルを用いた遺伝子発現解析をRNAだけではなく,蛋白質も対象として詳細に行う。さらに平成26年度の実験結果から絞り込みができたキー分子の遺伝子発現変動について、培養細胞を用いて鉄が負荷されたときにどのように変動するのかを行う。
研究計画は概ね順調に進展してるが,消耗品購入時の割引額等で小額の繰越金が生じた。
次年度の消耗品の購入に使用する。
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