研究実績の概要 |
悪性度の高いトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は増加し続けているが、予後改善はみられていない。その原因に、標的が不明確で有効な治療薬の使い分けが困難なこと、が挙げられる。そこで責任標的の解明を行い現在の薬物治療の最適化を図り、新規治療が必要な薬剤耐性・予後不良群を明らかにすることが、治療戦略の構築・効率的な新規治療薬の導入に繋がると考えられる。 これらを達成するうえで現在の標準治療における予後不良群を選定することから始めた。TNBCにおいては術前化学療法(NAC)によって得られる病理学的完全奏功(pCR)が予後良好に結びつくことが分かっている。そこでNAC施行症例において治療前の生検検体におけるバイオマーカーを検索し、pCR予測可能なものを検索した。腫瘍細胞における標的の解明も重要であると同時に、腫瘍胞巣周囲の間質におけるリンパ球浸潤もpCR予測に重要である可能性が過去の幾つかの研究で示唆されていた。そこで我々は腫瘍浸潤リンパ球のなかでも、腫瘍に対して抑制的に働く細胞障害性T細胞(CD8陽性)と、腫瘍に対して増殖を助長する方向に働く制御性T細胞(FOXP3陽性)を詳細に検討した。その結果、NAC(約90%の症例でAnthracyclines followed by Taxanesレジメン)を施行した約130例のTNBCにおいて、針生検標本でのCD8陽性T細胞,CD8/FOXP3比が有意にpCRと関連していた。また、従来からある腫瘍における増殖因子であるKi67陽性率を加えることで、精度良くpCRを予測することが可能であった。このことは論文として報告しており(Miyashita M, et al. Breast Cancer Res Treat 2014, in press)、新規治療をNACセッティングで試すための重要なバイオマーカーになり得ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は背景・術前治療薬剤がある程度均質となっている患者集団の選択を行い、術前化学療法前の生検標本において腫瘍浸潤リンパ球とともに各種関連バイオマーカー(CD8,CD4,FOXP3,PD-1,PD-L1,CTLA-4など)を検討し、術前化学療法後遺残腫瘍で各種腫瘍浸潤リンパ球関連バイオマーカーも検討する。そしてそれらと予後との関連を検討し、新規追加治療の標的を明らかにする。また、化学療法による各種腫瘍浸潤リンパ球関連バイオマーカーの変化(生検標本-手術標本)を検討し、免疫応答の変化を明らかにする。以上から本課題であるトリプルネガティブ乳癌の治療アルゴリズムの構築を目指し、また可能な限りそれを他癌種と比較検討を行っていく。
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