研究実績の概要 |
胸腺腫は縦隔腫瘍のなかでは最も高頻度に発生する疾患であるが、他の固形癌と比すと比較的稀な疾患であり、本研究は遺伝子変異やRNA・蛋白レベルでの発現異常について明らかにすることを目的としている。 胸腺腫瘍においてはWHO分類や正岡分類といった組織学的・臨床的な病期や悪性度とFDG-PETでのFDGの集積が相関することが報告されており、糖代謝の関連を明らかにすることとして、低酸素状態のマーカーであるHIF-1および、糖代謝(Glut1 or Glut3)と血管新生(VEGF)マーカーの関連を明らかにし、また、低酸素状態は糖代謝だけでなく、アミノ酸代謝についても関与を明らかとすることを目的としている。 現在までに約100例の胸腺上皮腫瘍(胸腺腫・胸腺癌)の臨床情報およびFDG-PETなどの画像上情報、および病理学的な情報の集積を行った。また、パラフィン包埋された切除標本から免疫組織化学用の未染標本を各症例15枚ずつ作成した。また、前向きに約40例の組織(胸腺組織腫瘍部・正常部)の集積およびDNAの抽出を行った。 現在、抗癌剤の薬剤性耐性と考えられているERCC1, BRCA1, βtubulin, thymidylate synthase (TS)の発現や、免疫細胞である腫瘍関連マクロファージ(CD204)や腫瘍免疫関連のマーカーであるPD-L1, PD1の発現についてを解析するため、抗体の準備を行っている。また、胸腺癌はリンパ節や他臓器に転移を起こす頻度が高く浸潤性の強い腫瘍である一方で、胸腺腫の浸潤・転移の多くは胸腔内に限局することが多く、コネキシン26という転移形成に重要な細胞間接着因子についても解析を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、まず未染標本に対して発現蛋白について免疫組織化学を用いて評価を行う。解析を行う蛋白は、チロシンキナーゼであるEGFR、PDGFR,VEGFR,HER2、c-KITなどに加え、L-typeアミノ酸輸送体の一種であるLAT-1や、チミジル酸シンターゼであるTS-1, ERCC1,TUBB3, 膜貫通ムチン蛋白であるMUC1や増殖マーカーのKi-67などやCD31,CD34、癌免疫(腫瘍関連マクロファージやPD-L1,PD-1)についても解析を行う。 また、平成28年度には遺伝子変異やRNAレベルでの網羅的解析を次世代シークエンサーを用いて行い、各症例の臨床病理学的因子との相関・関連について解析を行っていく予定である。
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