研究実績の概要 |
本研究では、胸腺上皮腫瘍(TET)の切除検体に対する高感度アッセイ系による遺伝子変異解析と蛋白・RNAレベルでの網羅的解析を行い、胸腺腫瘍の発生・進展に関与する遺伝子変異や発現異常分子を見つけることを目的とし検討を行った。 まずTET31例に対して、次世代シーケンサーを用いてKRAS, BRAF, PIK3CA, HER2, EGFRおよびT790M変異のamplicon sequenceによる変異解析を行った。胸腺腫でKRAS変異2例(6.5%)、BRAF変異(3.2%)を認めた。特にBRAF変異についてはこれまでに報告がなかった。しかし、変異を検出した症例はいずれも低悪性度胸腺腫症例であった。 次に、TET23例および正常胸腺4例(control)よりRNAを抽出し、NGSによる網羅的トランスクリプトーム解析を行った。胸腺腫・正常胸腺と比較して、胸腺癌では低酸素関連マーカーが有意に発現していた。特に本解析ではHIF1aの下流分子であるCA9(carbonic anhydrase IX)が胸腺癌において高発現していることが明らかとなった。TET切除症例188例について、免疫組織化学でCA9タンパク発現についての評価を行ったところ、TET全体の22%に発現陽性となり、RNA発現と同様胸腺癌で発現陽性例が有意に高かった。CA9タンパク発現は、正岡分類の他、WHO分類(病期)とも有意に相関し、術後無再発生存について有意な予後不良因子であった。 さらに、胸腺癌細胞株(Ty-82)を用いてin vitroの実験系でCA9の発現による腫瘍の増殖能や放射線感受性について検討を行った。Ty-82は低酸素状態によりCA9の発現が誘導され、SiRNAを用いて胸腺癌細胞株の低酸素状態で発現が上昇したCA9をknock downすると胸腺癌細胞株の増殖が抑制され、放射線感受性が上昇することを確認した。
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