HER2陽性乳がんをはじめ、多くのがん種では受容体型チロシンキナーゼ(RTK)の発現増加・活性化がおこり、細胞増殖や抗アポトーシス作用が促進される。RTK分子標的薬抵抗性がん細胞ではRTKおよび下流のシグナル伝達経路が再活性化するため、これらをモニタリングすることができれば、RTK分子標的薬の抵抗性あるいは奏功状態やその持続を判定することができるバイオマーカーとなりうるが、シグナル伝達系タンパク質のリン酸化状態は試料の保存方法等の影響を受け易いという問題がある。本研究ではRTKシグナル伝達系の活性化状態を反映するバイオマーカー候補を、様々ながん腫における抗がん剤抵抗性や術後予後と関連して発現変動するハウスキーピングタンパク質(HP)を中心に既報オミクス解析データからin silico解析で選抜し、質量分析装置を用いた定量解析により特定する。特定したタンパク質による1)RTKシグナル伝達系モニタリングシステムの構築及び2) 特異的抗体によるトラスツズマブや他RTK分子標的薬抵抗性判定検査法の実現につながる基礎的知見を整備することを本研究の目的とした。まず、乳がんに比べオミクス解析データが比較的少ない消化管間質腫瘍(GIST)のオミクスデータを用い、RTK分子標的薬イマチニブ(IM)抵抗性獲得に伴うMAPKシグナル活性化と同調して発現変動するHP群を見出した。これらのタンパク質の一部に関しては術後予後不良肺腺がん患者組織でも類似の発現変動を確認することができたことから、がん種を越えてRTKの活性化や発現増加と連動するHPが存在する可能性が示唆された。RTKシグナル伝達系の活性化状態を反映するHPが、IM抵抗性GISTの細胞株において細胞外小胞中に分泌されることを確認でき、バイオマーカー候補として開発を進めると共に、がん細胞のRTK活性化とHPの発現変動関係性の一部を明らかにすることができた。
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