申請者は、これまで腫瘍マーカーの1つである癌胎児性抗原CEAとCEA関連細胞接着分子群に着目した研究を行ってきたが、その中でCEAの新規アイソフォームを同定し、野生型CEA同様に培養上清中へと分泌されていることを発見した。本研究で申請者は、新たに同定された2種類のCEAアイソフォームを特異的に認識する抗体の作製とその検出系の構築を行った。 ①内因性CEAを発現・分泌する培養癌細胞、②樹立したCEA野生型および2種類のアイソフォームをそれぞれ単独で発現する安定発現株、これらの細胞株を用いて、CEA市販抗体および作製したCEA特異的抗体の評価を行った。その結果、複数の市販抗体では、すべてのCEA(野生型および2種類のアイソフォーム)を同程度認識したのに対し、作製した抗体では、市販抗体と比較してより強く一方のCEAアイソフォーム(5D)を特異的に認識した。 次に比較的アイソフォーム認識の特異性が高かった抗体を用いた検出系のさらなる評価を、院内のバンキング検体(血液、組織)を用いて行う予定であったが、研究機関の移動に伴い、研究計画の一部変更を余儀なくされた。そこで最終年度は、これまでの研究結果からCEAアイソフォームが、膵臓がん由来培養細胞株において特に多く検出されることに着目し、CEAの腫瘍マーカーとしての有用性向上の検証を膵臓がんに焦点を当てて行った。膵臓がん由来培養細胞株においては、CEA野生型・アイソフォームだけでなくCEAと相同性の高い関連細胞接着分子群(CEACAMs)が発現、分泌しており、そのパターンが他の臓器癌由来細胞株とは異なることが明らかとなった。さらには、膵臓がんの危険性が増すといわれている慢性膵炎や糖尿病などの疾患に関与する遺伝子異常のキャリアをもつ膜タンパク質との関連性も示唆された。
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